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◆黒き歴史の傍観者(15)


「さっきぶりだな、トカゲっ」
「なんじゃお主らは。私はそなたらとは初対面だぞ?大体、木に留まったか弱い動物をいきなり捕らえるとは、紳士たる行動とは到底思えぬぞ」

留まっている枝をアーノルドに切り落とされるという強引かつ乱暴な手段で捕まえられた黒竜は当然ながら不機嫌そうにアーノルドを見上げた。

「こいつが例の?」
「ああ。これほど早く再会できるとはな。いや、彼には初対面になるのか」

小竜は怪訝そうに小さな首をかしげている。

「さて、歴史家殿、少々聞きたいことがあるんだが」

オルスの言葉に小竜は軽く目を見開いた。そしてスッと気配が変化する。
油断なく相手を伺うような隙のない雰囲気となった。

「そなた何故、私が歴史家だと知っている?」
「それは当然の問いだろうな。我々は十年後の歴史家殿に光る小さな箱を使って、この時代へ送り込まれた者たちだ。貴方はその箱を壊れていると言った。時を超えるのが本当の用途でもないとも。そして、どうやらあなたはその箱を使用できても直すことはできぬようだった」
「ほう…」

心当たりがあるのだろう。黒竜は馬鹿にすることなく、真面目に聞いている。

「十年後の世界で、我々は最初にこの時代に落ちた仲間を捜していた。その途中に貴方に会った。貴方の名も聞いた。グィンザルドだろう?貴方は短剣が刺さっても重いというだけで、剣を抜いても無傷だった。貴方はこの森に何かを調べに来ているらしいことを話していた。貴方には時を超える品に心当たりがあるようで、我々と貴方の捜し物が一致したらしく、協力をし合った」
「ふむ、成る程な」

そこでエルザークが口を挟んだ。

「時を超える品って何だ?俺はいきなりだったぞ。お前らに追いつこうとしたらいきなり十年後に来てしまって、竜に遭ったんだ」
「竜?」
「あぁ爆発して、その場には消し炭しか残らねえんだが…」
「爆発する竜か。それならば心当たりがある。さきほど見てきたアレだろう。ふむ、興味深い。長く存在してきたが時を超えた存在に出会ったのは初めてだ」
「そうか、では提案があるが、しばらく我々に協力してくれないか?」
「ふむ、どんな協力をしろと?」
「七竜は大きな力を持つだろう?我々はお助けしたい方がいるのだが、戦力が足りない。そこで七竜が持つ力を貸して欲しい」
「私に歴史に関われと?私は常に傍観者でいたいのだが」
「既に関わっている。我々が送り込まれた時点で歴史が変わってしまっているんだ。たまには歴史を作る方になるのもいいのではないか?」

黒い小竜は思案するかのように黙り込んでいたが、やがてゆっくりと頷き、オルスの肩に飛び乗った。

「よかろう。私も少々調べたいことがある。時を超えた存在に付き合うのも悪くない。しばらくの間、同行してやろう」


++++++


ローグ達が動かぬままのため、一旦休もうということになり、交代で休憩を取ることになった。
最初に休んだのはエルザークだ。ただ一人で訳が分からぬ世界へ落とされ、かなり気を張りつめていたのだろう。横になった途端、すぐに眠りに落ちていた。
オルスとアーノルドはそのエルザークを挟むように座っていた。
オルスの隣では黒竜がさきほどオルスと二人で地面の中から発掘してきた光る箱をあちこち触っている。この時代にもあるはずだからと探してきたのだ。

「ふむ……どうやら正常に作動しそうじゃな」
「十年後へ帰れるのか?」

オルスの問いに小竜は首を横に振った。

「否。これはお主らに判りやすくいえば移動装置じゃ。時を超えたのは壊れていたからじゃ」
「じゃあ、場所の移動はできるけど、時間の移動はできねえってこと?」

アーノルドの問いに小竜はその通りだと頷いた。
オルスは思案するように視線を彷徨わせた。
アーノルドは目を輝かせている。

「場所移動が可能ってかなり便利ッスねー。ローウィン様の救出に使えそう〜」

前向きなアーノルドらしい意見にオルスは苦笑した。
同じ事を考えていたのだが、少々不信感も拭えない。いざというとき、やっぱり壊れていましたでは話にならないのだ。メインで使うより、いざというときの保険ぐらいに考えておいた方がいいだろう。
そのとき、エルザークが小さく呻いた。神経質で眠りが浅いエルザークはなかなか熟睡できない質なのである。

「先輩、こっち。まだ眠ってていいッスよ」

アーノルドは地面に横になっているエルザークの体を抱き起こし、そのまま上半身を抱きかかえるような姿勢で抱き込んだ。アーノルドに半分抱かれたような姿勢となったエルザークはうっすらと目を開けたが、眠気が強かったのか、そのまま抗うことなく再び眠りへ落ちた。浅い呼吸が徐々に深くなっていく。慣れた体温がエルザークに安心感を与えたのだろう。

数刻後、最初に異常に気づいたのはさすがというべきか、小竜であった。

「騎馬の音がするぞ」

アーノルドはエルザークを起こし、オルスは光る小箱を荷物へ放り込み、身構えた。

「あれは…」
「ディンガル騎士団。まさかこんなところで会うとは…」
「援軍に呼ばれたのだろうな」

ディンガル騎士団は北と西の守りを担当する。援軍として呼ばれれば、どちらにでも援軍へ向かうのだ。

「チャンスだ」

ディンガルは間違いなくローウィン救出へ来たのだろう。このままであればローグ王子と遭遇する。互いが互いに気を取られているとき、ローウィン救出のチャンスが訪れるだろう。