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◆黒き歴史の傍観者(12)


一方、ローウィンは時間ではなく、場所を飛ばされていた。

「何処だよ、ここ…」

しかしそのような事情は意識がなかった彼には判らない。その上、体中が痛み、動くのもままならない。
周囲に部下が一人もいないことも謎だった。

深い霧が、そして状況が運命を交錯させたのか。

「誰かいるのか?」

気づいたのは相手の方が早かった。

「こちらだ」

安堵が先に立ち、ローウィンは深く考えず呼んでしまった。
ローウィンの呼び声にやってきたのは思いもかけない相手であった。
銀色の長い髪、金色の瞳。
柔和な双眸に銀色の甲冑。甲冑に刻まれた紋章は見間違えることのない白竜の紋章。

「ローグ王子…………」

「双将軍………!」

とっさに剣を構えたローウィンはその動きにより痛んだ体に顔をしかめた。
ホールドスの王子ローグはそれを見逃さなかった。

「酷い怪我だな………よき人質が出来た」

相手は無傷だ。戦う前より勝負は見えているも同然だった。


++++++

「この辺、この辺っ」
「本当か?」
「おうっ!俺の勘は外れねえんだぞ、トカゲ」
「だから、私の名はグィンザルドだと申しておるではないか。トカゲと呼ばれては名乗った意味がない。よいか、そもそも名というものは個を現す意味があり…」
「んなことどうでもいいから、さっさと先輩を捜してくれよ!」

言い争う二人の後ろ姿を見つつ、オルスは軽く周辺を見回した。
日はだいぶ落ちており、周囲は薄暗く、足下が覚束ない。

「アーノルド、そろそろ松明を用意しよう」
「はい、先輩!」

アーノルドは火の印を持っているのでこういう時はやりやすい。
アーノルドが荷物から草を編んだような紐を取り出している間にオルスは適当な大きさの枝を切り、余計な葉などを落として準備した。
アーノルドが取り出した草を編んだ紐のようなものはこの世界で一般的に売られている松明用の紐である。虫が嫌う匂いを発する草に火がつきやすいように、ヤニを塗り込んで編んだもので、これを割木や枝などに巻き付けて使用する。
アーノルドが火をつけると周囲がパッと明るくなった。
二人が準備をしている間に小竜は近くの木々に移って周囲を見回している。夜目が利くのかその行動に躊躇いはない。

「ふむ。なるほど、確かにこの近くだな。次元の歪みがある」
「なんだって?何か判ったのか?トカゲ」
「トカゲではないと申すに…」

小竜の返事も諦め気味だ。

「結果を言おう。お主らのセンパイとやらは、時空の狭間に飲み込まれたようだ」
「ジクーノハザマって何だ!?食われたってのか!?どういう魔物だよ!?」
「魔物ではない。そもそも生き物ではない」
「だ、だって、飲み込まれたんだろ!?あ、底なし沼みたいなやつか?」
「ふむ。近いかもしれぬが目には見えぬ。少なくともそなたらの目にはな」
「えええええ?先輩助かるのかっ?」
「単にここにおらぬだけだ」
「じゃどこにいるんだよ!?」
「それは調べぬと判らぬ」

小竜は木の上から地面に降り立った。アーノルドとオルスは松明を手に駆け寄る。

「ここを掘れ」
「ま、まさか掘ったら先輩がでてくるのか?」
「でてこぬ。だが探すためのものがでてくる」

アーノルドとオルスは顔を見合わせた。
わけがわからない。しかし他に手がかりもない。
オルスは片膝を着くと地面に手をついた。

「では私がやろう。土の印を持っているのでな…」

オルスの手が輝くと周辺の大地が大きく盛り上がった。