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◆黒き歴史の傍観者(11)


一方、十年後。
オルスとアーノルドは日が暮れかけた森で一旦森を出るか、野宿するか相談し合っていた。

「食料は一応三日分用意してきたから野宿は可能だが…」

しかし夜の森は危険がある。セイーラのように深い森なら尚更だ。
やはり一旦森を出るかとオルスが決断しかけたとき、アーノルドが動いた。

「夕食捕まえたーー!!黒いトカゲッスよ、先輩!」

アーノルドが投げた小剣は手のひらサイズのトカゲを見事にしとめていた。
黒いトカゲは地面に落ち、その身体には小剣が突き刺さっている。サイズ的には小さいが食べられないことはないだろう。
…と、そのとき、そのトカゲがむくりと起きあがった。

「そなたら、何をする、粗暴な。通りすがりのか弱い動物にいきなり剣を投げるなど紳士たる行動とは思えぬぞ」

身体に小剣が突き刺さったまま、しゃべり始めたトカゲにさすがのオルスも唖然とした。
その隣でアーノルドは目を輝かせている。

「喋った!!!すっげーーー!!!」

いや、しゃべったことより剣が刺さっても生きていることの方が凄いのでは?とオルスは思った。しかしどっちもどっちである。大差ない。

「通りすがりって何処にいくところだったんだ、お前?」

だから、問題はそこではないのでは?とオルスは思った。
しかし小竜は剣が刺さった姿のまま大真面目に応じた。

「実はこの近くに前の時代の遺物があってな。殆どは地の底で眠っているはずの代物なのだが、それが起動した気配があったもので念のために調べに来たのだ。
おかしなものだ。あれは十年前、一度起動したものの、私が駆けつける前に破壊されたはずなのに。そもそも何故起動したのかが判らぬ。もしかしたらこの近くに落雷でもあったのだろうか。しかしその程度の衝撃で起動するかどうか。あれは本当に古く…」
「悪いけど、全然意味がわかんねーや、トカゲ!」

小竜の言葉を遮るようにアーノルドは告げた。
話を遮られて気を悪くするかと思われた黒いトカゲはそうだろうと寛容に頷いた。
オルスはその様子を見て、小さなトカゲなのに物わかりがよくて寛容な立派な人物ではないかと感心した。エルザークがこの場にいたらつっこみどころ満載だったことだろう。

「それよりエルザークは?」

オルスが問うとアーノルドは慌てて小竜に問うた。

「あ、そうそう!トカゲ、俺の先輩知らないか?」
「センパイとは何だ?」
「えーと、俺の運命の相手で土の上級印持ってて、藍色の髪でちょっと目つきは悪いけど実はいい人っつーか。短気で照れ屋だけどさ!」

言いながら照れ始めたアーノルドにあまり説明になってないなとオルスは思い、横から付け加えた。

「身長はこのアーノルドより少し下。年齢は私と同じだ。服装も近い。我々は狩りのため、この森に来ていて、彼だけがはぐれたんだ」

なるほど、と黒い小竜は頷いた。

「場所はこの付近なのか?」
「いや。もっと森の奥だ。少々解せぬところもある。声が届くような近距離で突然馬ごといなくなった。突飛な行動を取る人物でもなければ、そうする理由にも心当たりがない」

何らかの事故に巻き込まれたかもしれないとオルスが告げると小竜は小さな腕を組んだ。

「ふむ…私には少々心当たりがあるやもしれぬ。そのいなくなった場所付近に連れていってはくれぬか?」
「マジで!?すぐ行こうっ!!」
「うむ。だがその前にこの小さな剣を抜いてくれ。さすがに重い」

痛くはないらしい。

「あ、悪い!」

アーノルドは手を伸ばすと小剣を抜いた。何の抵抗もなく小剣が抜ける。小竜の身体には全く傷跡が残っていない。

「お前すげえっ」

小竜はアーノルドの肩に飛び乗った。

「さすがにいつまでもお前だのトカゲだの言われるのは少々居心地が悪い。まずは名乗っておこうか。私はグィンザルド。歴史家だ」
「へー、歴史家か。すげー。俺はディンガル騎士団副将軍アーノルドだ。よろしくなっ」

小竜は肩の上で固まった。

「…おぬしが副将軍…………そなた狩人ではないのか?」
「おう!副将軍だ!ディンガルの炎虎って言われてる!すげーだろっ」

たっぷりとした沈黙があった。

「……ホントウか?」
「おうっ!!」
「………」

ふぅと小竜はため息を吐いた。

「………世も末だのう」
「どーいう意味だよ、トカゲっ!!」