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◆鎮静の絆(3)


15歳という年齢は運命の相手と出会う歳だ。
邂逅の儀に誕生日を迎えているかいないかで儀式に臨めるか臨めないかが決まる。
幸い、オルスとエルザークは揃って誕生日を迎えていたので、士官学校三年時に邂逅の儀に参加することが出来た。
その結果、二人揃って土の上級印を手にした。
そうしてエルザークは思いもかけないことを聞かされた。

「何だと…?」
「だから、お前はアーノルドの運命の相手らしい」
「アーノルドが俺の運命の相手……」

棒読みで復唱したエルザークにオルスは真顔で頷いた。

「本気か?」
「本気も何も事実だ。神に誓って、俺はそう聞いた」

エルザークは理解した途端、一気に爆発した。

「あの小猿の相手が俺だと!?冗談じゃない!!むしろお前であるべきだろ!?何の悪夢だこれは!!神の試練か!?そうなのか!?」

オルスは苦笑した。

「世間は狭いな、全く。俺もアーノルドの相手がお前とは思わなかった。お前は上級印だが通常あるように腕に印は現れているし、サイズもアーノルドほど飛び抜けたものではない。おまけに土だからアーノルドとは異種印だ」
「そうだ!何かの間違いじゃないのか!?」
「例外だらけなため、既にしっかり調べられたそうだ。まず間違いはないらしい」

がっくりと肩を落としたエルザークにオルスは視線を窓の外へ向けつつ告げた。

「アーノルドは印が印だからな。運命の相手は望めないと思っていた。それだけに幸運だ。アーノルドは不運もあったが、不幸中の幸いという類では本当に強運だ」
「俺は迷惑だ!」
「そういうな。お前はアーノルドを救えるんだ」
「……なんだと?」
「この可能性はないと思っていた。アーノルドの運命の相手は現れないと思っていたからな。
相印、しかも土と炎ならば抑え合う。通常なら喜ばれない組み合わせだが、アーノルドの場合は別だ。お前の土がアーノルドの炎を抑えることができる」

何故自分がと思った。アーノルドのような子供っぽく甘えん坊な性格の相手は苦手だ。
しかし発作を何度か目にした。助かるすべが少ないことも聞いた。
それを自分が救えるという。
喜ばしいような複雑なような気持ちが満ちてきて、エルザークは無言で黙り込んだ。

「俺では駄目なんだ」

オルスが言う。
それはそうだろう。相印の相手にしかできないのであれば、エルザークがやるしかない。
エルザークにしかアーノルドは救えないのだ。


+++


エルザークは食堂で深々とため息を吐いた。その様子を見て周囲の友人たちは苦笑した。
隣に座るユージンと向かいに座るロイはエルザークの友人だ。
ユージンは軽くウェーブを描く柔らかな茶色の髪と緑の瞳をした生徒である。やや軽薄そうな雰囲気がある優男だが、士官学校の成績はいい方だ。
一方のロイは黒髪黒目で愛嬌のある軽い性格をしている。しかし彼はユージン以上の遊び人で夜に部屋を抜け出すこともよくあるという有様だ。
見かねた教師が学級長のオルスに頼み、オルスが面倒を見るようになった。その流れで自然とエルザークとも交流するようになった人物である。

「小猿の相手がお前ねえ…俺がエルザークの相手になりたかったな」

ユージンが茶化すように言うとエルザークは顔をしかめた。

「お前もゴメンだ」
「ちえ、冷てえの〜」
「しかし運命ってのはよく出来てるんじゃねえか?」

ロイがサラダをしかめ面で食べながら言った。

「アーノルドの超級の印に『抑え』の地の印ってところがな。そしてオルスじゃなくてお前ってところもさすがだと思うぜ。アーノルドにオルスじゃ駄目だろ。ヤツは甘すぎる」

相印は天の配剤だ、とロイ。

「相印は意味あって下されるものだという。あいつの相手がお前である意味があるんだろうよ」