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◆双〜共に歩み行く道〜(6)


スターリングとギルフォードの執務室は向かい合わせに作られている。
共に出撃することが多いため、仕事も共同作業になることが多い。

恋人ができたという報告を受けたスターリングは、そうか、と淡々としていた。書類から顔を上げもしなかった。
しかし、ふと、何かに気付いたようにギルフォードの方を見た。

「……そういえば初めて聞いた気がする」
「誰のせいだと思っている!」

これまで一度も恋人ができなかったのは多分にしてスターリングが原因だ。
トラブルメーカーな彼に振り回されてそれどころじゃなかったこともあるが、見目の良すぎるスターリングと比べられるのが嫌だという理由で避けられていたこともある。いろんな意味で彼が原因なのだ。
しかし、スターリングには納得がいかない話だったのだろう。少し眉根を寄せた。

「恋人を作るなと言ったことはない」
「あぁ、そりゃそうだろうよ!」

全くこの男は腹が立つ。いつだってギルフォードがフォローしているのに、それが当たり前という顔をしているのだから。
今だってギルフォードが勝手に誤解して、勝手に怒っていると思っているに違いないのだ。

「おい、そこの書類の束はなんだ?」

ふと気付けば、スターリングの執務机の上に異様な厚みの書類があった。ギルフォードに心当たりがないということはまだ手を付けていない書類である可能性が高い。

「それは触らないでくれ」
「何?」
「……うむ、その……新しい副官が来たので、彼にさせるつもりだ。触られると困る」
「お前、また変えたのか。しょうがないヤツだ」

言いづらそうにしたのは、副官を変えたことがばれるのが嫌だったのだろうとギルフォードは思った。これだけ一緒に仕事をする機会が多ければ、どうせばれるのに往生際が悪い。
スターリングの副官は長続きしない。振り回されることが多いので、胃を痛めて、疲れ果てて辞めていくのだ。
今度の副官はどれぐらい続くのやら、見当も付かない。半年も続けば良い方だろう。
もっとも、だからこそ、ギルフォードがフォローせねばならなくなることも多いのだが。

「蛇が食べたい」

また唐突におかしなことを言い出した。

「カリカリで」

揚げたものが食べたいと言いたいのだろう。
食用になるとはいえ、は虫類を扱っている店は限られる。しかも蛇となると尚更だ。
職業軍人だ、何でも食べられるが、やはり食の好みというものはあり、は虫類を好む者は少数派だ。
スターリングは、は虫類が好きなようだが、ギルフォードはそれほどでもない。しかしスターリングに誘われ、ときどき食べに行く。だが、は虫類を扱う店で揚げ物がある店はギルフォードが知る限り、一件だけだ。
ようするにその店へ食べに行かないかと誘われているのだ。全く判りづらい。最初からその店へ行こうと言えばいいのに、なぜわざわざ蛇を持ち出すのかが判らない。スターリングとは長く付き合っているが、彼の思考回路は未だに理解できない。

「ギルフォード、蛇を…」
「判った!行くから蛇、蛇、言うのはよせ!」

なんだかんだ言いつつも付き合いがいいものだから、友人関係が続いているのだが、自覚がないギルフォードであった。