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◆双〜共に歩み行く道〜(5)


ギルフォードは、容姿のよい男である。
相方のスターリングほど華があり、目立つというわけではないが、金髪緑眼の彼は、十分端正な容貌で、平均以上の容姿をしている。
実力と容姿の良さを併せ持つ彼は人気在る将の一人だ。異性からの人気も高く、同性からもあぁなりたいと憧れられている。
当人は出会いがないと嘆いているが、それは単に誤解と偏見からくるものだ。彼はしょっちゅうスターリングに振り回され、世話をしている。見目も良く実力もあるスターリングと比べられては困るという先入観を周囲に植え付けてしまっているのだ。
金髪緑眼で体格もよく、ハッキリした性格のギルフォードは、外見からはそれなりに遊んでいるように見える。しかし、実際は正反対であると知る者は殆どいない。
それは彼の複雑な内面にあった。

彼はシプリの実兄であり、シプリと違って士官学校卒の生粋の騎士である。
弟が軍人に道に反発したのと反対に、彼は幼い頃から軍人の道に疑問を抱いていなかった。
何も考えずに軍人の道に入り、騎士の道を歩んできた。
彼は軍人として優秀であったが、他のことには全く目を向けてこなかった。
そんな彼は弟が被服師になったとき、羨ましく思った。そして初めて、己にも軍人以外の道を選ぶという選択肢があったことに気付いたのだった。

(シプリは器用だからな)

家を飛び出して被服師の元へ修行に入った弟は行動力があり、性格も指先も器用な人物だ。
被服師を目指すだけあり、センスもよく、自分に似合ったものを身につけている。
逆にギルフォードはそういったことが判らない。
若者らしくファッションや遊びに関心はあるのだが、どうやったらいいのかが全く判らないのだ。そのため、店ですすめられるがままに購入している。購入するだけの収入があるので持っている服の数は多い。
そして、性行為の方も遊ぼうと思って誘われるがままに歓楽街へ出向いたことはある。
しかし積極的な遊女に気圧され、結局酒だけを飲んで帰宅するばかりだった。
プライドが高いだけに相談することも、誰かに手ほどきを頼むことも出来ず、気むずかしく直情的な性格が災いして、親しい友人も少ない。
仕事熱心で出世はできたが、出世すればするほど近づいてくる者は部下ばかりになる。
結局、今の今まで誰とも付き合ったことがないまま、憧れだけを抱いて今に至っていたのであった。

プライドが高いギルフォードは、恋愛関係で遊んだことがない人間だ。
しかし、憧れだけは人一倍持ち合わせていたため、初デートには張り切っていた。

(なかなか、良い服を着ているな)

ファッションには興味がなさそうなレナルドだったが、センスのいい服を着ている。首に付けたアクセサリーは手作りだろうか。木製だが細工が見事だ。
実は彼の弟シプリが、事情を何も知らぬまま見立ててくれた服なのだが、ギルフォードが知るよしもない。
しかし、ギルフォードに対し、相手は一言もなかった。
せっかく初デートだと気合いを入れた服装で出向いたギルフォードは落胆した。

「どうだね?私に何か言うべきことはないのか?」

自分こそ、レナルドの服について何も言っていないことを忘れ、ギルフォードはそう問うた。
服はどうかと言うのは直接的だろう。そう思い、彼なりに言葉をぼかしたつもりであった。

「………手」
「手?」
「握りたい」

期待していた言葉ではなかったが、手を握りたいという誘いは実にデートらしい誘いである。ギルフォードは喜んだ。

「そ、そうか。確かにデートの時ぐらい、手は握らないといけないだろうな」

もっともらしく頷いて差し出した手をレナルドは握りかえした。

「花も買う」
「!……よ、よかろう。私に似合う花を選びたまえ」

片や、教えられた順番を守っている男。
片や、初デートに浮かれきっている男。

意思の疎通は全くなかったが、不慣れな者同士で幸せに楽しめるデートとなったのであった。