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◆双〜共に歩み行く道〜(2)


スターリングは見目がいい。
『人形のように整った容姿』という言葉があるが、文字通り、スターリングは人形のように整った容姿をしている。軍人という肉体派の職に就いているくせにけして焼けることのない白い肌に、冷たいほど整った目鼻立ちをしている。白い肌に映える黒々とした艶のある黒髪に生気溢れる鮮やかな蒼い瞳。ギルフォードは己の運命の相手ほど容姿の整った男を他に知らない。それぐらい見目が良いのがスターリングだ。
しかも、この男、顔だけでなく軍人としての才能にも溢れている。
水の印の使い手で、三重印使いであるカークほどではないが、戦いに使用するには問題ないほど印を使いこなし、剣技も強い。
そして何よりも軍を率いる才に優れている。常に冷静で感情を揺さぶられることがない彼は、どんなときも冷静に状況判断を下せる才能がある。
その軍の動かし方はマニュアル的ではあるが、それだけに大崩れすることがなく、隙がない動かし方をするのだ。結果的にいつも模範的な勝利を掴んできっちり帰ってくる。

(全く腹が立つ!こいつのフォローをしているのは俺なのに!)

士官学校で運命の相手として知り合った時から、この破天荒な友のフォローをするのはいつもギルフォードの役目である。運命の相手だからという一言でいつもギルフォードにその役目が回ってくるのだ。
旅芸人でも選ばないようなおかしな服のときも、前衛的過ぎる髪型や七色の髪色のときも、訓練という名目の拷問じみたスパルタで部下が泣きついてきた時も、人里離れた山奥の温泉への旅のときも、ギルフォードが動いてスターリングを止めたのだ。
部下曰く、『スターリング様に関することはデーウス様よりギルフォード様に頼むべし』なのだそうだ。尊敬する上司デーウスでさえ、スターリングを止められないことがあるらしい。
ハッキリ言って冗談ではないし、面倒なのだ。しかし、断ろうにも『お前の相手だろうが』『部下を見捨てる気か』という批難めいた眼差しを周囲から浴びるのだからたまらない。拒否権があれば拒否したいところだ。何故生まれながらにしてこんな立場を押しつけられねばならないのか。
しかも運命の相手とはいえ、水と風の組み合わせであるため、嵐の相性なのだ。嵐の相性はハッキリ言ってよくない。文字通り、荒れ狂うという意味で、よい関係ではないのだ。
ありがたくもない運命を押しつけられたギルフォードは、いつでもこの関係を投げ捨てたいと思っている。
しかし、そう思うギルフォードを阻む絶対的な決まりがある。

運命の相手は、可能な限り、同じ任務、配属先とすること。

印の高揚効果や仕事効率などから定められた決まりだ。
この軍規があるため、仕事もほぼ確実に一緒になってしまうのだ。事実、士官学校時代から今に至るまで、クラス、寮、配属先まで強制的にすべて同じになってしまった。
仕事が強制的に同じなら、プライベートすらも一緒になることが多い。とにかく接する時間が長いのだ。
ずば抜けて顔が良いスターリングは同期の中で出世頭ということもあり、とにかくモテる。
見目に騙される女性から、彼に憧れる男まで、様々なタイプの相手が火に酔う羽虫のようによってくる。
しかし、いつもすぐに破綻するのが常だ。しかも大抵の場合、モメて終わるのだ。
交際前に断ればいいのにと思うギルフォードだが、スターリングは告白してきた相手と付き合ってしまう。そして彼なりの誠意と独特すぎる好意を見せ、フラれる。
ギルフォードも何度か相談を受け、アドバイスをするのだが、それはそれで相手に嫉妬されてしまうという悪循環を生み出してしまう。

『ギルフォード将軍と付き合っちゃえばいいでしょ!!』

と相手に嫉妬されてしまうらしいのだ。
ギルフォードにしてみれば相談を受けてアドバイスをしているだけであって、邪魔をしている気はみじんもないというのに、多くの場合、そういった誤解を受けるのだからたまらない。
はっきり言って、スターリングと付き合うことほどあり得ないことはないのだが、何故かスターリングと付き合う者たちにはそういう風に見えてしまうらしい。
『運命の相手=恋人』という軍でありがちな図式は、時によっては心底迷惑だ。
スターリングの方もギルフォードに対しては、『何か違う』らしいので、付き合う気はないらしい。だから問題はないのに誤解されてしまうのだ。

「死ぬ時はお前と一緒かもしれん」

スターリングはそう言う。
ギルフォードもそう思う。一緒に出撃し、一緒に戦っているのだから可能性的には高いだろう。違和感も覚えない。
しかし、恋愛は違うと思うのだ。
生死は一緒にするかもしれない。しかし、彼と家庭を築けるかと言われれば否だ。彼とは家庭を持とうとは思わない。こんなトラブルメーカーと家庭など持とうと思えるものか。そもそも彼には微塵も恋愛感情を抱けない。だから『違う』のだ。
恐らくスターリングも同じ思いがあるのだろう。だから彼も『何か違う』と言っているのだ。

(全くいつまでもこいつの相手などしてられん。さっさと恋人を見つけたいものだ)

スターリングのフォローが大変すぎていつの間にか恋人も持たぬまま、今まできてしまった。この年で誰とも付き合ったことがないというのもなんだか恥ずかしい。
チャンスがあればいつでもと思っているのに何故かその機会がない。
いつぞや、酒の席で恋人が欲しいとぼやいたところ、

『スターリング将軍がおられるじゃないですか』
『ギルフォード将軍って面食いっぽくて、紹介しづらいです』
『スターリング将軍と比べられるのはちょっとツラいですよね』

とのことだった。
多くの誤解や偏見が混ざっているのがよくわかる話だった。
結局、ここでもスターリングのせいか!と思ったギルフォードだったが、結局誤解は解けることがなく、出会いもないままであった。