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◆双〜共に歩み行く道〜(1)


己の運命の相手は、とにかく常識から外れた男だった。
誕生日プレゼントだと言って初めてもらったものは大量の雪だった。
それもバケツ一杯に汲んできたのだ。
当人曰く、綺麗なところの雪を選んだそうだが(一体それはどこだ)、全くありがたくない。

「白いものが好きなんだろう?」
「確かに白は好きだ!だが、それは服など、身につけるものについて聞かれたと思ったんだ!!」

雪などもらってどうしろというのか。
幾ら好意とはいえ、雪を貰っても使い道がない。
白いものなら、せめて花にしろと突き返した。

翌年、似たようなことを恋人にやって、別れ話に発展したと聞いた。
しかも自分のときより質が悪かったらしい。

「ウサギ!?」
「わざわざ狩りに行って、獲れたての、まだ温かなウサギを渡したのに」

感情の起伏が判りづらいスターリングである。まるで無表情、そして棒読みの台詞だったが、付き合いの長いギルフォードには、スターリングが憮然としているのが判った。
しかし、今回は確実にスターリングが悪い。女性が獲れたてのウサギなど貰って喜ぶわけがない。ウサギの死骸にしか見えなかっただろう。ウサギ=肉だと決めつけてしまうのは狩人や軍人だけだ。
むしろ、普通の女性が言う『ウサギが好き』は、見た目のことだろう。愛玩動物としての言葉に違いない。
しかも相手は貴族の女性だというから尚更だ。貴族が自分で料理などするわけがないのだから。

「卒倒されなかったか?」
「悲鳴を上げられた」

そりゃそうだろう。普通、プレゼントでウサギの死骸など渡されるはずがない。フラれるのも当然だ。
結局、わかっていないスターリングの代わりにギルフォードが相手の女性へ謝罪しに行く羽目になったが、さすがに関係の修復は不可能だった。


その後も友人は次々に人間関係という名のトラブルを起こした。しかも当人に自覚がないから質が悪い。天然といえば簡単だが、天然にしても度が過ぎているほどの変人ぶりを発揮してくれた。

目がくらむような色遣いの服を平然と着ていたり(元々の容姿がいいだけに酷い状態になっていた)。
服だけでなく、髪も原色使いのカラフルな七色に染めてみたり(部下が驚愕していたが、それ以上に上官のデーウスが驚いたらしく、精神的な病にでも陥ったのではないかと相談を受けた。当人は単にやってみたかっただけらしい)。
体の弱い女性に蛇が入った薬用酒をプレゼントしたり。(大人しい女性だったので悲鳴を上げられたらしい)
山奥にある温泉へ部下を連れて行ったり(片道二日もかかる酷い山奥で、疲れが取れるどころか往復の旅程で疲労しまくりだったらしい)。
新しい恋人に勧められたという薔薇風呂を実行するため、湯を入れずに薔薇だけで風呂を満たしてみたり(根本的に薔薇風呂がどういうものか勘違いしていたらしい)。
更にその花びらで浴室の配水管を詰まらせたり。

それでも周囲が軍人だったら、『スターリング様らしい』と笑ってすませてくれるのだ。少々迷惑ではあっても深刻な問題にはならないのだ。
取り返しがつかなくなるような、深刻な問題はいつも恋愛関連であった。