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◆地〜歩む道と信頼と〜(6)


シプリはウンザリしていた。
仕事の邪魔をされて迷惑し、親友の側には好きになれぬ人物がいる。
今度の新入りは迷惑な奴らばかりだと思う。

「まぁそう言うなよ。ローはエドたちと和解したようで、最近は協力し合ってうまくやってるようだぜ。もうそっちには手出ししてこないだろ?」

あいつらにはちゃんと仕事を与えておいたしな、と告げるアスターにシプリはしぶしぶ頷いた。確かにこちらの管轄の仕事には手出しをしてこなくなった。それでも不快な思いをしたのは確かだ。

「で、そのさぼり魔はどーするつもりさ?」

いつ来てもソファーで寝ているザクセンを顎で差すとアスターは苦笑した。

「まぁそう言うなよ。そのうち仕事を頼むさ。今は…そうだな、俺の護衛ってとこか?」
「いつどんな風に護衛してるのさ?」

そもそもアスターに護衛がいるのだろうかとシプリは疑問に思う。知将ノースじゃあるまいし、戦えない将じゃないのだ。

「ザクセンのやつ、部下はいらないなんて言い張るからよー。ホーシャムさんと組んでもらおうかと思ってるところだ。ホーシャムさんも歳だしよ。一人で隊を動かすのは不安があるし、ザクセンと組んでもらえばいいんじゃねえかと思ってな」
「ホーシャムの隊にはエドたちやローもいるだろ?彼らはどうするつもりさ?」
「また部隊を再編するさ。安定させるためにはいろいろ試してみねえとな〜」
「俺たちはそのまま?」
「あぁ。今回の再編はザクセンの隊とホーシャムさんの隊の二隊のみだ。大きく動かすのも将軍と隊長位のみだ」

ソファーに転がっているザクセンは無言だ。この会話が聞こえていないはずはないが、口出しする気もないのだろう。正しくは会話する気がないと言ったところか。アスターの話ではそれなりに喋る人物だというが、少なくともシプリは殆ど声を聞いたことがない。どうやらアスター以外の相手には口を開かない人物らしい。

(ちょっと気の毒だけどね)

シプリはそう思う。
ザクセンのことは好きになれないが、彼がアスターに好意を持っているのであれば気の毒だと思う。アスターが非常にモテる人物だからだ。ライバルだらけという現状を思えば少しは同情する気になる。何しろ、シプリが知るだけでも3〜4人はいる。更に一般のファンになれば相当な数だろう。青将軍という高位は人を惹きつけるのだ。その上、アスターは一般兵出身なので下からの人気が高いのだ。

部屋を出ようとしたとき、アスターの声が聞こえてきた。
ザクセンに対し、コーヒーを飲まないか、茶菓子は何が良いかと問うているようだ。
そういえばあの親友は世話好きだった。そのため、わがままな人物や手のかかるタイプとうまくやっていけるのだ。ザクセンは怠惰でわがままな人物のようなので、尚更、相性がいいのだろう。

彼がザクセンを選ぶというのであれば少々複雑なシプリである。

アスターはよき友だ。
世話好きで頼りがいもあり、仕事もできる。友人としては文句なしに信頼できるよき友だ。
けど、彼の趣味だけはついていけない。
子供やわがままな女王さまタイプが好みのようなのだ。

(ほんっとに趣味が悪いよ、アスター)

あきれ気味にそう思うシプリであった。