青将軍の公舎には食堂がある。
麾下2000兵が常に揃っているわけではないが、働く人数が多い公舎だけに食堂も大きく、なかなかの規模だ。
アスターは元々セルジュの元に長くいたため、この食堂にも馴染みがある。
見晴らしのいい窓際の席に座り、アスターは友人達と夕食を取った。
「なんっつーか、こう、兵士時代は俺がここの主になるなんて思わなかったぜ」
一般兵時代からセルジュの元にいたアスターである。感慨深く呟いていると、全くだね、と向かいに座るシプリが同意して頷いた。
「怒濤の数年間だね。まだ続いている分、過去形にできないのが残念だよ」
食堂には幹部用の席とメニューも用意されている。
一般兵は日替わりメニューもパン、スープ、サラダぐらいだが、幹部となるとデザートやワインがつき、パンやサラダも豪華なものとなるのだ。
テーブルも奥にある広く立派な席が使用可能となる。広くスペースが設けてあり、寛ぐことができるのだ。
今、その席に同席しているのはシプリの他、老兵ホーシャム、マドック、レナルドだ。
食堂内は食事時のため、混雑しているが、軍幹部が集まっているため、この席近くは遠慮したように遠巻きにされている。
「こんなデザート付きの食事ができるようになるとはこの40年間、思いもしなかったわい」
嬉しそうに焼きフルーツを食べるホーシャムは少ない髪の毛を赤いリボンでポニーテールのように結んでいる。どうやら赤将軍の赤いコートに合わせているらしい。なかなか洒落っ気がある老兵である。
「うーん、俺も20年、思わなかったなぁ」
ワイン片手に呟くマドックも感慨深そうだ。彼は壮年の兵であり、ホーシャムほどではないが一般兵時代が長かった。レンディの気まぐれがなかったら今ここにいなかったのは確実である。アスターたちと違った意味で運命が変わった一人だ。
「そうだな。…で、ノース様の話なんだけどよ」
アスターが昼の一件を話すと、ホーシャムたちも思案顔になった。
「それじゃ明日、デーウス黒将軍の元に行くんだ?」
「まぁな。まさかカーク様の件を実行できるわけねえだろ?」
「できた」
アスターの台詞に反論したのはレナルドである。
黙々と食事をしていた彼だがちゃんと話を聞いていたらしい。
「できた?…って………あー……」
アスターはレナルドが元敵国の騎士を現在部下にしていることを思い出した。しかも有能な部下だ。
「どうやったんだ?」
マドックの興味深そうな視線にレナルドは真顔で答えた。
「股間を蹴って捕まえた後、責任持って治療した」
「……それは痛そうだな」
答えるマドックもしみじみとしている。冷や汗がでているように見えるのは気のせいじゃないだろう。同じ男なら同情せずにいられない話だからだ。
「ま、まぁその方法はレナルドしかできないだろうから、レナルドに任せるとして、俺は普通にデーウス様にお願いしてくることにする」
「まぁそれがいいだろうね」
「そうじゃのー」
さすがに部下達もレナルドの行為をまねする気はないらしい。
アスターはワイン片手に体を震わせた。
「しっかし何度聞いても痛そうな話だ…」
「そうだね…」
「全くじゃのー…」
うっかり想像してしまい、青ざめるアスターたちであった。