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◆銀〜罪の持つ真実〜(2)


王都に戻ったアスターたちは、約三ヶ月後、人事移動の辞令を受けた。
大きな戦いの後は昇進や異動があるため、戦後処理が終わる頃に辞令が下ることが多い。当然ながらアスターたちも心構えはしていた。
しかし、心構えをしていたにも関わらず、アスターは驚愕することとなった。

「青―――!!??俺が青将軍――――!!??」

嫌々ながらの軍人アスターはとうとう上から二番目の高位に出世してしまったのである。

「な、な、な、なんでっ!!??」

動揺の大きな部下に対し、部下よりはるかに小柄なノースはあっさりと答えた。

「委任だ」
「委任……?」
「青将軍は昇格もしくは引退時に後任を選ぶことができ、青将軍の人事はそれが最優先される。そしてそれは黒将軍二名以上の承認ののち、正式に任命となる。今回は三名の黒将軍が承認したので何の問題もなく任命された。君はセルジュ軍の後任となり、私とレンディとデーウスの承認により青将軍に任命される」
「セルジュ様が引退されるんですか!?」
「そうだ。命は取り留めたが回復に目処が付かず、後遺症の可能性も考えられるため、引退すると当人から申し出があった」

ノースは光沢のある質の良い紙を差し出した。
自分よりはるかに小柄な上司から無言の威圧感を感じ、アスターは緊張した。

「セルジュから伝言を受けている。『君の心の有り様を良きものと思う。闇の中で見た君という光に感謝している。私もまた信じてみようと思う。君の前途が良きものであることを祈る』だそうだ。さぁ受け取りたまえ。君は彼の信頼に応えなければならない」

アスターは任命状を受け取った。

セルジュは一体どんな思いでその言葉を託したのだろうか。
アスターと違い、最初から騎士としてエリートコースを走ってきたであろう相手。その彼が戦場に戻れなくなったという衝撃は大変大きなものだろう。

「セルジュからは来訪を断らせてもらうと言われている。体調がよくないそうだ」
「そうですか…」
「あと、カークからも伝言を受けている。『昇進おめでとう。今後も良き男を見つけたら必ず捕虜とするように』とのことだ。恨まれるのも面倒だから一応、伝えておくよ」
「は、はい…」

今となっては同地位となった元上司は相変わらずであるらしい。
ため息混じりの伝言を受け、引きつり気味に返答するアスターであった。


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青将軍となったアスターは正式に公舎を持つこととなった。
とはいえ、委任のため、セルジュが使っていた公舎をそのまま引き継いだ。長くセルジュの元にいたアスターには馴染み深い公舎だ。
そして、青となったアスターには当然ながら部下に赤将軍がつく。
戦後の大きな人事移動でセルジュの元麾下たちも移動となっており、形だけはセルジュの軍を継いだとはいえ、赤将軍を引き継ぐことはなかった。
替わって赤となったのは部下達であった。
難攻不落の砦を落とし、レンディ部隊の窮地を救って奮戦したため、その功績が認められたのだ。

「ホッホッホー!!赤じゃ赤じゃーっ!」

痩せた小柄な体で腕を振り上げて喜んでいるのは老兵ホーシャム。
勤続40年以上。ついに彼は一兵卒から将軍位にあがったのだ。

「…ふむ」
「はー…まさか赤になるなんて思わなかったよ。被服師はいつになったら戻れるんだろ」
「…カリスマ狩人…」

赤将軍になったのは老兵ホーシャム、マドック、シプリ、レナルド、ユーリ、女騎士カーラといった側近の面々であった。

「俺もいつになったら戻れるんだろうなー」

ぼやきつつも諦めが大きいアスターである。
さすがに今の地位から戻れるとは思えない。軍事大国において、青将軍はそれほどの高位なのだ。

一方、エドワールとトマも騎士隊長に昇進していた。セルジュを救ったことでデーウス黒将軍の口添えがあったらしい。

「そ、そ、そんな……ぼ、ぼ、ボクが部下持ちだなんて…」
「大丈夫ですよ、坊ちゃまっ!!」

エドワールの自信のなさは相変わらずだ。二人セットにしておき、気の利く部下をつけてやらなければならないようだとアスターは思った。

「ところでアスター。誰の元につくのさ?」

シプリに問われ、アスターは返答に困った。
新参の青将軍であるアスターは誰の側近でもない。つまりフリーの状態だ。
しかし、昇格時に承認してくれた黒将軍はレンディ、ノース、デーウスだというからこの三人から指名を受けたら、優先的に応じる必要があるだろう。

「あ〜、決めちゃいねえが、今のところノース様かな?」

元々カーク部隊にいた身であるため、何となくそう答えると、皆もそう思っていたのか、納得顔であった。

「それがいい。デーウス軍、最悪」

そう断言するレナルドはデーウス黒将軍に不信感たっぷりのようだ。

「お前、あの方と何があったんだ?」

世間的には人格者として知られているデーウス黒将軍と何があったのやらと疑問に思いつつ、アスターは部下たちへ告げた。

「とりあえず相談がてら、イーガムに挨拶へ行ってくる」

アスターと同じく青に昇進した同期へアスターは会いに行くことにした。