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◆人形なる獣(5)


またもノースに出征命令が下ったのはそれから二ヶ月も立たぬうちのことであった。
執務室に呼び出した側近は最初からしかめ面であった。

「嫌ですっ!私も親戚の親戚のそのまた親戚が亡くなりましたので参戦できませんっ」
「それは一体どこの親戚だい?カーク…。詳しく聞かせて欲しいものだね」
「嫌だったら嫌ですっ!今度こそ『愛と悲しみの筋肉ミュージカル 筋肉と美貌の戦い』を見るんですっ!!待ちに待った再演なんですよ!これを見逃しては親に顔向けできません!」
「葬儀と関係ないじゃないか」
「ダンケッドだって葬式の時にミュージカルに行っていたかもしれないんですよ、ノース様っ!嫌だったら嫌ですっ」
「筋肉のミュージカルになど彼が行くとは思えないがね。
全く、君はどこの駄々っ子だい。仕方がないね、今回限りだよ、カーク」
「ありがとうございます!主演男優のサインはしっかりゲットしてまいりますよ、ノース様!」
「いや、いらないから」

興味がないサインなど貰ってどうしろというのだ。

「そうだ、カーク。その男優さんたちに手を出すんじゃないよ」
「………残念ですねえ」
(やっぱり…)

ふとした思いつきではあったものの、釘を刺しておいて正解だったと思うノースであった。


++++++


そんな経緯でカークの出陣を見送ったノースはため息を吐いた。
今回はダンケッドが参戦できる。しかしカークがでれないとなると、側近が一人欠けるという意味では前回と同じだ。

(困ったな…)

青将軍は最大三千兵まで部下を持つことができる。ただし、実際にそれだけの兵力を抱えることが出来るのは黒将軍の側近中の側近だけだ。そうでなくば兵を食わせていくことが困難だからだ。
ノース麾下の青将軍も同じで、ダンケッドとカークだけが三千兵を抱える。他の側近はそれ以下の兵力だ。

(カークが抜けるのは痛い…)

頭が回り、個人技にも長ける側近。
性格的な問題はあっても味方としてはこの上なく頼れる部下だ。
早まったか?と思いつつもさほど重要とは言えない戦いだ。無理に連れていくほどでもないと判断した。たまには我が儘も聞いてやらないとあの側近はうるさいのだ。

(またあのディルクを呼んでみるか…)

彼は風と水を持っている。カークとの違いは緑の印を持つか持たないかという違いだ。戦力としては良いものを持っている。彼と他の青将軍も連れていけば何とかなるだろう。
視線の先では側近ダンケッドが像のようなものを磨いている。彼は骨董品収集が趣味なのだ。

「頼んだよ、ダンケッド」

唐突な上司の声に無口な側近は怪訝そうに首をかしげ、『はぐれのディルクを呼ぶ』と告げると軽く頷いた。