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◆人形なる獣(3)


ノースはガルバドス国の軍人である。
茶色の髪に灰色の瞳を持つ彼は軍人としては小柄で痩せた人物だ。
ガルバドス国の黒将軍は己の官舎を持っている。
普段はそこで執務等をしており、側近の青将軍もいることが多い。
それはガルバドス一の知将と呼ばれるノースも例外ではなく、彼の官舎には側近の青将軍が来ていた。
その側近カークは長いストレートの真紅の髪を持ち、美貌と長身の鞭使いとして名をはせている。

「……ダンケッドが行けないのか……困ったな」

ある内乱に出撃を命じられたノースだったが、側近の青将軍ダンケッドが同行できないという。家族に不幸があったため、葬儀に出なければならないそうだ。
カークと違って問題を起こすわけでもない、よき側近だ。たまの頼みぐらい聞いてやりたい。
それに大きな戦いというわけでもないので無理を押してついてこいというほどでもない。しかしダンケッドが抜けるのは痛い。彼の持つ戦力は大きいものがあるのだ。

「私も出来れば休みたいですね。オペラハウスで行われるミュージカルに大変いい男が出るという噂なんですよ。評判によりますとその俳優は…」

ソファーに座り、優雅に紅茶を楽しんでいるもう一人の側近は趣味のために休みたいらしい。
当然許可を出せるわけがなく、ノースは素知らぬ顔をした。

「カークは必ず同行するように」
「なんて酷いことをおっしゃられるのですか、ノース様!私がどれほどこの演劇を楽しみにしているか…!」
「すまないが、君にまで抜けられると大きな痛手だ。カーク、君のその情報網とやらでダンケッドに代わるよき青将軍がいないか調べてくれ」
「条件は?」
「とにかく攻撃力に長けた者がいい。君とダンケッドに並ぶ強さがあればいうことなしだ」
「黒将軍の側近以外であれば、該当するのは『はぐれ』たちですね」

カークの返答にノースは眉を寄せた。

青将軍には『はぐれ』と呼ばれる者達がいる。
文字通り、『はぐれ者』を意味し、別名を『宿無し』、『殲滅者』という。
それらの者達は黒将軍への出世コースから外れた者達だ。黒へは出世できない。しかし功績と実力が大きいため、赤へ落ちることもない。
更に彼等は主を持たない。どの黒将軍にも従わないのだ。
彼等は総じて大きな能力を持っている。しかし同時に大きな欠陥も持っている。
黒将軍に従わない青将軍は呼ばれることがない。呼ばずとも他の青将軍を選べばいいだけだからだ。
御しにくい彼等を使う者は少ない。しかし無視できないだけの強さを誇る。それが『はぐれ』だ。

「呼んでもいいと思いますよ、私は」

変わり者の部下カークはそう答えた。

「強さを借りればいい。彼等も暴れる場所が欲しいでしょう」
「君はそのうちの誰を薦める?」
「ディルクですかね。フリッツやクヌートも悪くはありませんが、単純な戦闘能力でいえば彼です」
「ディルク……?」
「今はもう亡くなった黒将軍の麾下にいた将です」
「……顔だけじゃなくて能力もあるのならそのディルクでいいよ」
「ええ、能力は抜群ですよ」
「じゃあ彼で…」

あいにく、はぐれに関してはろくな話を聞かない。はぐれと呼ばれるだけの過去を持っているのが彼等なのだ。さてどうなることやらとノースはややうんざり気味に思った。