綱~勝利をたぐり寄せる手~
アニータが内乱を鎮圧させて戻ってきた後、黒将軍会議が行われた。
アスターとレンディは国王のお供で保養地へ行っていたし、アニータは内乱の鎮圧に出向いていた。そのため前回から少し間が空いている。
そして今回はダンケッドが不参加だ。今回の婚約の件に絡んで実家に出向いているらしい。そのためアニータが少しつまらなそうな顔をしている。問いたいことがあったのだろう。
「なんだい、ダンケッドは休みかい。アスター、一体何があったのさ?ダンケッドがいきなり相手を変えた件、アンタは知ってるんだろう?」
アニータはアスターが持ち込んだパイ生地のクッキーを食べながら問うてきた。
「はい、知ってます。実は俺もちょっと関わってると言いますか……」
アスターが事情を説明すると、アニータは顔をしかめた。
「それは嫌だね!そんな風にウジウジした男はどうかと思うよ!」
とのことだったのでアスターと似た感想を抱いたようだ。
「でもこれで次の王は決定だね。そう思っていいんだろ?」
「はい。陛下は元々お二方のどちらかと考えておられたようですのでこれで決定だと思います」
「へえそうなんだね。アンタ陛下とそういう話をしたんだ?」
「はい、したことがあります。元々バルドイーン様とベルンスト様を高く評価しておられたので順当な結果ではないでしょうか。そしてベルンスト様がダンケッド様を娶るならベルンスト様が次の王じゃないと大もめするでしょう。ベルンスト様の能力的に次の王で問題ありませんし、黒将軍が五人後押ししていて、ダンケッド様のご実家やカーク様のご実家が後押しなさるなら決定でしょう。たぶん陛下もそうお考えになると思いますよ?」
「まぁそうだね、これでバルドイーン様の方が後継者になったら誰もが何で?って思っちまう。そうなるといろいろ面倒事も起きそうだ。これで決定だろうね」
「あー、それでですね、アニータ将軍。貴方が鎮圧に行かれた内乱なんですけど」
「ああ、とっても胸くそ悪い相手だったよ!人間の盾を使うなんて!……ノース将軍、カークを派遣してくれてありがとね。アスターもね、助かったよ」
「ああ、どういたしまして」
「はい、お力になれてよかったです。それでですね、日干しレンガを見ましたか?」
「日干しレンガ?ああ、確かにそういう建物がチラホラとあったね。ガルバドスで見るのはちょっと珍しいかもしれないね」
「あれは元々南の隣国グロスデンで主流の建物の作り方のようです。最近グロスデンからの移民が増えているのか、我が国でも日干しレンガの建物が見られるようになったんですよね。カーク様の為に良い男の情報集めをしている画家たちからの情報によると日干しレンガの建物で暮らしている人間は高確率で南からの移住者なんですよ」
ガルバドス国は周辺の国々を吸収して大国にのし上がった国だ。そのため複数の国々の人々の集まりでもある。そんな国であるため元敵国、現国民なんて人間が多く、移民に対して過剰な反応をする者は少ない。
実際アニータたちも移民に対し、さほど注意を向けていなかった。だがそれが今、不穏な雰囲気を醸し出しているグロスデンからの移民であれば別だ。何か思惑があってこの国にきているのでは?と勘ぐってしまう。
「グロスデンがホールドスと手を組んでいるのはほぼ確定のようです」
「何だって!?ホールドスといえばあの紅竜がいる国じゃないか!」
会議室内に緊張が走る。アニータ同様、他の黒将軍たちも驚いてアスターを見た。
「そうなんですがそれとは別に情報が入ってまして。ディンガ、地を駆ける蛇を知っているか?グロスデン国にいるらしい」
「こいつは驚いた。何千年振りだろうな、その言葉を聞いたのは。あやつらは我々と同じく高い知能を持つ兵器だ。こいつは厄介だな。あやつらは地中を移動する巨大なミミズのような存在だ。突然地中から現れて食らいつき、地中へ引きずり込む。サイズは我々と同じく自在に変えられる。強敵だぞ」
青竜ディンガの説明に会議室内がシンと静まりかえった。
「ディンガは対応できるか?」
アスターの問いにディンガは軽く鼻を鳴らした。
「こっちも巨大化すれば簡単に引きずり込まれることはない。だが簡単に倒せる相手でもない。あやつに対抗できるのは隣国にいる紫竜ドゥルーガだな。ただし、巨大な落雷を地に落として倒すというやり方だから味方が側にいたら出来ない。地に流れる電流で人間も即死するからだ。あくまでも一対一、部外者がいない状態だと勝てるというだけだ」
「うっわ、紫竜ってそんなこと出来るのか!そんなことをされたらこっちが何万人いようが死んじまうじゃねーか、最悪だな」
「やることはなかろうよ。味方まで一網打尽になるからな。そうしたら使い手まで死ぬ。だからすることはない」
「紫竜ってちっこいのに強いんだな」
「何を言ってやがる。俺たちにサイズは関係がない。あいつもやろうと思ったら山のように巨大化できるぞ」
「なんだそれ、厄介だなー、戦場で会ったらどうすりゃいいんだよ」
「徹底的に使い手を狙え。紫竜を倒そうと思うな。使い手を倒せ。それしかない」
「判った、覚えておく」
「アスターはその情報をどこから?」
ノースが静かに問うてきた。
「グロスデンに潜入させた部下からの情報です」
「その部下はかなり優秀だね。この情報はかなり隠されていたはずだ。知られてしまったら対処法を考えられてしまう。知られていなかったら戦場を大混乱に陥れることができる。だから絶対に隠しておかないといけない情報だ。この情報を探し当てたその部下はとても優秀だ」
「ええ、まぁ……そうですね、優秀です。……レナルド赤将軍、つまりギルフォード将軍の婚約者です。彼は闇の印の使い手でして死霊と話をすることができます。その能力で見つけ出してきました」
「最近留守をしていると思ったらそういうことか」
ギルフォードが深々と溜息を吐いている。婚約者が褒められて嬉しいというより、長く不在にしている理由が判って何とも言えない気持ちになったらしい。
「すみません、あいつまた何も言わずに出て行ったんですか?」
「いや、仕事でしばらく留守にするとは言っていた。他軍だから詳しい内容を言えないこともあるだろうと追求はしなかったんだ」
「なるほどそうでしたか。お気遣いありがとうございます。あと、皆さんにお願いがあるのですが」
「何だアスター?」
「俺、ホルグ軍とブート軍を引き継いだじゃないですか。管轄地も全部うちが引き継いだんですよね。……今までコツコツと頑張ってはいたんですが……すみません、正直多すぎて手に負えません。いろいろと支障が出てきました。手伝ってください」
そう説明して頭を下げると他の黒将軍たちは納得顔になった。
元々二人の黒将軍で守っていた地をたった一人で引き受けたとなるとそうなるのは無理もない。そして黒将軍が管轄する地というのは大体は元敵国の地だ。その為いろいろともめ事などの問題が起きやすいのだ。
「それでですね、幾つかはノース軍に引き受けてほしいんです。カーク様の側近の方々の旧国が含まれていますのでその方々だったらその地の事情に詳しいでしょうし、故郷のためですからちゃんと民に配慮してくださると思いますんで。ただ、カーク様の部下の方々ってみんな赤止まりじゃないですか。そろそろ青になられないんでしょうか?」
アスターが問うとノースは深々と溜息を吐いた。
「実は今、それで頭を痛めている。ダンケッドが昇進した時に結構多くの側近と部下を連れて行かれてしまった。だから幾人かを青に上げたかったんだ。その上げられるだけの功績を挙げているのは大半がカークの側近たちでね。彼らを上げないと道理が通らない。だが彼らが上がろうとしないものだからそこで仕事が止まってしまっている」
「するとカーク様は反対しておられない?」
「ああ、カークは彼ら自身の判断に任せると言っている。昇進しろと命じてもくれないが、反対もしていない」
「なるほど……では俺が説得してみてもいいですか?青にならないと公共工事などの仕事を請けられないし、領地の管理がスムーズに進みません。それにカーク様のお力になるのは青だろうが黒だろうができますよ。そう話して説得してみます」
実際に他軍に行こうが黒に昇進しようがカークのために働いているアスターが言うのだから妙に説得力がある。
黒に昇進しながらも『カーク様の為にいい男捜し』をしていると公言している男である。他の黒将軍たちも納得顔であった。
「そうだな、是非頼む。この問題はもう何ヶ月も私の頭を悩ませているんだ」
わかりましたと頷くアスターであった。