綱~勝利をたぐり寄せる手~
ノース軍の公舎に行ったらやはりダンケッドがいた。非常に不機嫌なため、ノースとカークが迷惑顔をしている。
どうせノースとカークに報告しなきゃいけないからと思ってダンケッド軍の公舎に行く前に立ち寄ったのだが好都合だ。これで纏めて報告ができる。
「ダンケッド殿。ベルンスト様がダンケッド殿を嫁に貰いたいそうです」
「そうか好都合だ。俺はベルンストと結婚することにする」
「待て本気か!?」
「おやこれは意外な展開ですね」
ノースが驚き、カークは面白そうな顔をしている。
「アスター、ベルンスト殿下はまだ愛人を失った心の傷が癒えておられないのではなかったか?」
「俺もそう思うんですが決断してくださいました。別に無理強いをしたわけじゃないです。ベルンスト様のところへ行った時にちょうどバルドイーン様もいらっしゃってて。けれど愛人のことも無碍に出来ないとウジウジしておられたので、ベルンスト様を焚きつけました」
「いや、焚きつけているではないか」
「ですがノース様。この状況で愛人を優先するってどう思いますか?ただの王族じゃなくてあの方は王位を競い合っている身ですよ?そのためにはダンケッド殿は絶対に切り捨てられない存在です。オマケに幼い頃から側にいて長い時を過ごしてきたかけがえのない相手です。そんなに大切な相手をすぐに選べない男って情けなくないですか?現状が見えていない上、男として情けないです。俺は絶対にベルンスト様の方がダンケッド殿を大切にしてくださると思います。確かにあの方も娼婦を愛して玉座から離れてしまわれたこともありました。けれど誰か一人を選べないとウジウジする人よりも誰か一人だけを愛する人の方がよくないですか?実際にベルンスト様はおっしゃいました。私ならダンケッドだけを愛するとバルドイーン様に宣言しておられましたよ」
「そうなのか……」
「これによってベルンスト様はバルドイーン様と不仲になられる可能性があります。それでもベルンスト様は決断してくださったんです。最愛のご兄弟と戦う決意をしてくださった、この差は大きいと俺は思います。国王になる人は切り捨てられる覚悟や決断力を持つ人物の方が相応しいと思います」
「……まぁ確かに。私としてもベルンスト様に不満があるわけではない。ただちょっと驚いただけだ。ダンケッドはバルドイーン様と付き合いが長かったし、こうなるとは思ってもいなかった。ダンケッドはそれでいいのか?本当に後悔しないか?」
「……もしかしたらするかもしれないな……。だがもう決めた。今から王宮へ行ってくる。ノース、カーク、ベルンストへの後押しを頼む。これを機会に次の王を決めてしまおう」
「そうか、君が決断したのなら私はそれに従おう。ベルンスト様が王になることに私は不満がないからね」
「意外な結果ですが悪くありませんね。黒将軍同士で争わずに済みます」
カークもアスターと同じ結論を出したようだ。
そうしてダンケッドが部屋を出て行き、アスターはノースに向き直った。
「ベルンスト様のところへ行ったのに思わぬ展開で肝心の用件を忘れてしまいました。実はアニータ軍の内乱の鎮圧について相談があるのですが……」
アスターが事情を説明したところ、ノースは顔をしかめていた。やはり人間の盾を使っているという部分だろう。ノースは常識的で民間人を戦乱に巻き込むことを嫌う。
「あいにくだが私もあの領主たちの弱みは知らないな。カーク、君は?」
「不本意ながら知っておりますよ。ノース様、私がちょっと出向いてきます。私がいるとわかれば領主たちも強く出られません。私の実家との関係がありますからね」
「なるほど。民間人が巻き込まれている以上、早めに対処した方がいい。人選は任せるよ、カーク。行っておいで」
「脅しをかけるだけですからあまり戦力はいりません。私が居合わせているということが重要なだけですからね。出しゃばりすぎてアニータ軍に睨まれるのも面倒です。少数で行ってきますよ」
「カーク将軍、ありがとうございます」
「どういたしまして。しかしアスターは今回の件はほぼ関係がないでしょうに」
「なんか民間人が巻き込まれていると知ったら放っておけなくなりました」
「そうですね、無力な民間人を巻き込むとは醜い戦い方です。私もどうかと思いますよ」
そういった経緯でカークが出て行き、ダンケッドは本当にベルンストと婚約をしたようだ。正式に発表された。