綱~勝利をたぐり寄せる手~


 国王のお供を終えて王都へ戻ってきたアスターは部下のバハルド青将軍を部屋へ迎えていた。バハルドはゼスタ黒将軍の麾下から移ってきた将だ。目的はアスター麾下のイーガム青将軍と恋仲になるためである。そのため一揉めも二揉めもあったがそれ以外には特に問題を起こすことなく過ごしている。

「バハルド、留守を守ってくれてありがとなー。これ土産。ザイフェルト領の特産品である羊乳で作ったチーズだ」
「わざわざお土産までご用意くださったんですか?相変わらずマメですね。ありがたくいただきます。ありがとうございます」
「どういたしまして。それでなー、ゼスタ黒将軍の下へ使いに行ってくれ。今、ゼスタ将軍が国内に蔓延しつつある麻薬の調査をしていることを知ってるか?」
「はい、ゼスタ将軍麾下の将の方々とは今も交流がありますので先日一緒に飲みに行った際に聞きました。ああその時にベルリック青将軍が貴方に大変感謝しているとおっしゃってました」
「ベルリック殿はどうしてカーク様に引っかかったんだろうなー。そこが心底不思議なんだけどよー」
「私も不思議です。ところで麻薬の話の続きをお願いします。話が逸れてますよ」
「ああ悪かった。それでな、調査時に武力を行使する必要が出てくるかもしれないわけだ。相手が悪あがきするかもしれねえからな。オマケにこれ、背後にグロスデン国がいるかもしれないんだ。武器購入のための資金稼ぎである可能性がある」
「なんですと!?」
「あくまでも可能性だ。確定したわけじゃねえ。その辺りのことも現在調査中だ。そしてこの件はノース様もご協力くださっている。あの方が関わっておられるから当然その可能性も気づいておられるはずだ。だからそこは心配無用だ」
「なるほど、知将と名高きノース将軍が関わっておられるならどのような可能性も見落とされる心配はありませんね」
「そういうことだ。だが背後にそういった勢力がついている可能性があるならば、敵がどんな手を使ってくるか判らない。そのため、武力行使で来られる可能性がある。その際、スムーズに対処出来るようにあらかじめ陛下から、敵が武力で来た場合は部隊を出して鎮圧してもいいという許可を頂いておいた。その話をゼスタ将軍に伝えておいてほしい」
「なるほど判りました。あの方も喜ばれることでしょう」
「おう。ゼスタ軍とは今後も仲良くしておきたいからな。上手く伝えてくれ」
「はい、お任せ下さい」

 今回は気を利かせて許可を取ってきたという形になるため、ゼスタ軍に恩を売れる。そのための使いだからバハルドも気分的に行きやすいのだろう。上機嫌で部屋を出て行った。
 そこへシプリがやってきた。

「アスターお帰り。ついでに報告だよ。アンタが留守中にアニータ軍が内乱鎮圧のために出撃したんだけどさ」
「あー、やっぱり出撃することになったかー。あ、これ土産。ザイフェルト領の特産品である羊乳を使ったチーズだ。よかったら食ってくれ」
「ありがとね。それでね、苦戦しているんだって。領主軍だけならともかく、明らかに一般市民が兵として混ざっているらしい。女子供すら武器を持ってるらしくて派手な攻撃が出来ないんだってさ」
「マジかよー!それ明らかに計算尽くじゃねーか。人間の盾だろ!」
「アニータ軍は印使い中心の軍だから相当にやりづらいだろうね」

 人間の盾とは民間人を使うことにより、攻撃を躊躇わせる手段のことをいう。卑怯な手段として敬遠されるため、実際に使われることは少ない。
 そして印による戦いは派手で迫力があるが、範囲攻撃となるため、人間の盾を巻き添えにしてしまう可能性大だ。つまり今回はアニータ軍が得意とする戦法をとれないという事になる。

「命じているのが領主様方なら領主様方を何とかするしかねーか。なんか領主様方を黙らせる方法がねえかなー。ちょっとベルンスト殿下に相談に行ってくる」

 自分には貴族の情報が足りない。ならば知っていそうな人に相談するしかない。そう考えて王宮に向かったアスターであった。