綱~勝利をたぐり寄せる手~
第一王子バルドイーンの下へ思わぬ情報が入ってきた。国王が十歳以下の王子王女に限り、継承権を放棄すれば命を保証すると発言したという。元々幼い弟妹たちは大半が下級貴族か平民の母を持つ子たちだ。つまり勝ち目がなかった。弟妹たちは母の元で毎日怯えて暮らすしかなかった。そんな幼い弟妹たちの命が保証された。それを成し遂げたのはアスター黒将軍だという。彼の抗議をあの王が受け入れたというのだ。大変驚いた。重臣たちも心底驚いているという。
アスター将軍は印も通常印で目立った戦歴がない。他の将に比べると実に平凡な将だという評価だった。だがあの王へこれほどの影響力があるのならば話が違う。王宮ではアスター将軍への評価が一気に高まった。
バルドイーンは自分の部屋へやってきたすぐ下の弟と情報交換をした。
「いい将を味方につけたな、ベルンスト」
「ああ、とても掘り出し物だったと思っているよ。ところでそのアスターがそなたの愛人は何人いるんだと聞いてきたんだ。彼は元ノース麾下の将でダンケッドとも交流があるようだ。そなた、ダンケッドに疑われているんじゃないか?」
「い、一応、和解できた……と思っている」
「そなたは昔から押しに弱い。だから私の方が高く評価されがちになってしまうんだ。そなたと私は功績がほぼ同じだというのに全く……」
「甘いという自覚はある」
よく言えば優しく、悪く言えば甘すぎる。そんなバルドイーンは自分に好意を向けてくる女に弱い。そのため、無碍に出来ずに押し切られてしまうというパターンが見られる。
今回も同じで愛人を突き放せずやんわりと断っていたところ、しびれを切らしたダンケッドを怒らせてしまったという流れであった。
「す、捨てられたらどうしよう……」
「そう怯えるぐらいなら何故愛人を突き放さなかったんだそなたは……」
「可哀想だろう!?あんなに小さくて弱々しいのに」
「体格がいいダンケッドに比べたら誰だって小さくて弱々しいに決まっている。だがそなたの愛人で弱々しい女などいなかったぞ。誰もが世継ぎを産む気満々だったじゃないか。気にしすぎだ」
「いやそう言われてもな……」
「そなた、ダンケッドに捨てられてもおかしくないぞ……」
「そんな恐ろしいことを言わないでくれ!」
この兄は仕事となると大変頼れるし、ずっと長く助け合って生きてきた戦友とも言える存在なのだが、こういうところが玉に瑕だと思うベルンストであった。