蝶~夢境の鳥かご~

 翌日、アスターはシプリとザクセンのみに昨日の一件を教えて相談した。たまたま朝から会えた側近がその二人だったのである。

「それはまたずいぶんと面倒な騒ぎに巻き込まれたね。本来王宮で起きた事件なんて君は無関係でいられただろうに」
「全くだ。その場に居合わせなかったら絶対に巻き込まれなかったぜ」
「それでどうするのさ?」
「どうするもこうするも、ご遺体を埋葬する手伝いをするしかねえよ。あのままじゃ側近たちにろくな扱いを受けないのが目に見えている」
「娼婦とはいえ、第二王子の寵姫だった方なのに?」

 シプリが不思議そうに問うと『それは違うな』とザクセンが否定した。ザクセンは元黒将軍で先々代国王に愛されていた人物だ。そして今は引退済みの先代国王と交流がある。そのため王宮の事情に詳しい。

「さっきアスターが言っただろうが。生まれがよくなくて側近たちには疎まれているようだったと。つまり寵姫となる前、正式に娶る前だったというわけだ。恐らく今回の一件、側近たちは大喜びだろうよ。最大の障害が勝手に消えたわけだからな」
「それほど障害となるの?だって正妃に血筋の良い女性を迎えればいいだけじゃないか。妾に平民が混ざる話だって珍しくない。ただ単に生まれてくる子供の継承権が低くなるだけだ」
「それは王となった後の話だ。王となった後ならば愛人がどんな女性であろうと大した問題にはならねえ。特に正妃を娶った後ならな。今の国王だって平民の妾を娶るようになったのはしかるべき血筋の女を正妃として娶った後だ。物事には順番ってもんがある。もめ事を減らすための順番がな。それほど溺愛している女だったのなら他の女など目に入らぬ状態だったのだろうよ。恐らく他の女に目もくれず、その女のみを愛していたんだろう。だが娼婦ってのが問題だ。さすがに妾であっても身売りをしていた女を寵姫にってのはな、側近が許すはずがねえ。オマケにまだ後継者を争っている段階だ。その女は継承問題の足を盛大に引っ張ってくれる存在ってことになる」
「何かほんっとーに面倒くさいんだね。それでどうするのアスター?」
「殿下が納得してくださるようなそれなりの墓地を探そうかと。一応今から大聖堂に相談に行ってみる」
「殿下が納得してくださるような墓地ってどういうところだよ。それにそんな墓地ならご立派な墓地になるでしょ?娼婦を埋葬する許可が出るかな?」
「わからねえ。けどなるべく大聖堂の墓地に入れるよう頼んでみる。あー、それでな?カミィ殿がいらっしゃった娼館を探してくれ。カミィ殿の側用人に聞いた話だと高級娼館で紫色の建物だって話なんだけどよ」
「ええ?娼館の名前もわかんないの?探しづらいなぁ」
「側用人も知らなかったし、殿下も覚えてらっしゃらないらしくて。側近は教えてくれるわけがねーし、どうしようもなかったんだよ。けど殿下がお忍びで行かれたところだからかなり上等なところだと思う」
「あー、それもそうだね。そうなるとある程度は絞れるか。で、調べてどうするの?」
「葬儀の日程が決まったら連絡をする。ただそれだけだ」
「娼婦の外出って制限がある場合が多いよ?大聖堂の墓地まで出かけられるとは限らないと思うけど」
「そういう時こそ黒将軍っていう無駄な権力を使うときだろ。何とか娼館を説得するさ」
「君ってホントにお人好しだよね。会話を交わしたこともないような女性なんだろうに」
「そうなんだけどよー。なんか放っておけなくてな。殿下もお気の毒だし」
「まぁいいけどね……。その女性をきっちり埋葬することが出来たら殿下からの印象もよくなるだろうし悪い結果にはならないだろうしね」
「そうだな、次の王はバルドイーンかベルンストだ。次の王と目されるベルンストからの覚えがよくなるのはうちの軍の為になる。悪い結果にはならないだろう」
「そういうことを狙ってるわけじゃねえんだけど、女性が気の毒だから安らかに眠ることが出来るよう頑張ってみるよ」

 そう言って肩をすくめたアスターであった。