蝶~夢境の鳥かご~


 その後駆けつけてきたカークにノースの身を託したアスターは用事がなくなったため、自分の官舎へと戻った。
 本来、今日はカークによって王宮内を案内してもらう予定だった。そうすることによってカークとアスターの仲をアピールし、政敵に『新たな黒将軍は第一王子側だ』と示して牽制する意味合いもあった。……予定は中止となってしまったが。
 第一王子の婚約者であるダンケッドがノースの元側近である以上、ノースは最初から第一王子側となる。ノース自身がどう考えているかはアスターには判らないがダンケッドとノースは信頼関係にあるため、元部下のためなら動くだろう。結局は第一王子側だ。
 レンディは以前から王位継承問題には関わらず、中立を貫くと宣言しているという。
 他の黒将軍は判らないが積極的に王位継承問題に関わろうという将はいないような気がする。そういったことに興味を持つ面々ではない。あくまでもアスターの見立てであるがそう間違ってはいないだろう。
 つまりこの問題、ダンケッド、ノース、アスターという黒将軍を三人つけた第一王子の完勝となる。
 カークが第一王子を推しているのはやはりノースのためだろう。応援している王子が玉座に就いてくれた方が将来的に好都合だからだ。
ただ、ダンケッド的には不満かもしれない。彼は王妃となるのを面倒だと言って渋っていた。彼は生まれがいいので現状では逃れられそうにないようだが……。

(この問題、うちの軍に大きな影響があるかな?)

 王家の存在は無視できないが第一王子はあくまでも後継者に過ぎない。現時点では現国王バロジスクが健在なため、大きな影響はないだろうというのがアスターの見方だ。
 だが『即位前の大掃除』が行われる可能性はあるだろう。現国王が健在のうちに邪魔な政敵を排除しておこうと第一王子が考える可能性はある。
 ……というのも現国王バロジスクが即位前にそれを行ったらしいのだ。兄弟の大半がその大掃除で死に、すでに嫁ぎ済みの兄弟姉妹以外は皆死んだというから相当な粛正だったようだ。
 
(そういうのに協力したくねえんだけどなー……)

 だが行われるのであれば巻き込まれるだろう。それはすでに確定に近い。

(あー、こういう血なまぐさいのは嫌だ~。戦場の方がまだマシな気がする。王宮のこういうのはドロドロしてる感じがして嫌だ~)

 そんなことを悩みつつ執務室で頭を抱えていると早馬がやってきた。

「アスター将軍大変ですっ!!第一王妃様が敵国グロスデンに捕らわれたそうです!!」
「ハア!?」

 第一王妃というと今日お会いしたばかりの第一王子の母君だ。

「グロスデンっていうと以前隣国ウェリスタとやり合ったことがあるっていう南の国だよな?なんでそんな国が出てきたんだ?」
「サウザプトン国と手を組んだという情報が入っております。真偽はわかりません」
「マジか……」

 サウザプトン国には紅竜がいる。あの紅竜に苦い敗北を味合わされた経験はまだ記憶に新しい。

「何で王妃を?身代金が欲しいって訳じゃねえだろ」
「王妃のご実家の領がグロスデン国と隣接しておられます」
「なるほど……だがこの問題、うちが動かなきゃいけないかな?さすがに無関係な気がするが」

 動くとなるとやはりダンケッド軍になるだろう。何しろ第一王子の問題だ。
 そう考えるアスターの元へ次の使者がやってきた。南方の問題にダンケッド軍が出るという報だった。予想通りだったため、アスターは納得した。ダンケッドと第一王子の関係を考えるとごく自然な人選だ。
 
(それにしてもグロスデンは何故王妃を捕らえたんだろうな)

 そう思った。