蝶~夢境の鳥かご~
一方、国王バロジスクは自室でレンディとお茶を飲んでいた。
彼は酒を好むが大酒飲みではない。少し嗜む程度なのだ。そのため普段は普通に茶も楽しんでいる。
国内の情勢について少し話し合った後、新たな黒将軍の話題となった。その時珍しく青竜が小竜状態となって空いた椅子の背にとまった。
「あれは面白い存在だぞ、国王。そなたは当たりを引いた」
「ほう?そなたがそのような評価をするのは珍しいな。初めて聞いた」
バロジスクはニヤリと笑み、興味深そうに青竜を見やった。
「あれは『源泉の魂を持つ者』だ。非常に珍しくてな、数百年に一人現れるか現れないかってぐらい、歴史上には出てこない人間だ。そして国王の最高の片腕となれるため、この人間を手に入れた王は歴史に名を残す王となる。だから大切にした方がいい」
「ほう?それは興味深い。幸運の鳥ということか」
「『源泉の魂を持つ者』はまず王族や貴族には生まれない。どれほど汚い場面を見ようと、凄惨な場面を見ようと、それによって心が汚れ歪むことなく洗い流してしまう、そんな魂を持つ。どれほど汚しても、こんこんとわき出る清水のごとく、洗い清めてしまう。自分自身だけでなく、周囲をも清めてしまう。そして自身は揺るがない。よって王とは非常に相性がいい。王宮でどれだけ腐敗した状態を見ても性格が歪むことがなく、王が道を外れそうになった時に止めることができる人間だからだ。よってこの人間を得た王はよき国を築き上げることができる。ただし、この人間を側に置き、その人間の忠告を無視することなく受け入れることができる器を持つことが前提となるがな?」
「つまり側近として側に置けということか?」
試すように問うた青竜に面白そうに問い返したバロジスクはチラリとレンディを見た。
「徴兵から黒へ上がった人間だ。実力は確かだろう。側に呼んでも構わぬが、その者は我ではなく我の子と同世代だろう?つまり私ではなく私の子世代の王の片腕となるべき人間ということだ」
「うん、そうだね……。アスターはさ、俺が子供の頃に戦場で会った兵士なんだよ。そして俺がレンディだと知っても全く態度を変えなかった。俺が何をやってきたのか知らないはずはないのにさ、ぜんっぜん変わらなかった。そしてさ、徴兵時代も黒に上がった今も全然何も変わらないんだ。絶大な権力を持っても驕ることがないんだ」
「なるほど、それで『源泉の魂を持つ者』か」
「一つ忠告しておく、『源泉の魂を持つ者』は大切にしろ」
「さきほどもそう言ったな、青竜。歴史に現れるのが珍しく、大変貴重だと言ってもたかが一国民だ。別に殺そうというわけではないが特別扱いせずともいいのではないか?実力がなかったら死ぬ。それだけだ」
「いいや、死なせるな。必ずツケがくるぞ」
「ほう?それは現実的な意味でか?」
「そうだ。いいか、殺してはならない存在がいる。それが神々の愛し子だ。愛し子にはいろんなタイプがいるが半身と源泉の魂を持つ者、聖印を持つ者は死なせてはならない。必ずツケがくる。特に源泉の魂を持つ者は死なせてはならない。自然死は構わん。それは命ある者は必ずいつかは来ることだからだ。だが意図的に殺した場合、大災害が起きる。俺は途方もなく長く存在しているが、源泉の魂を持つ者を死なせた場合はいつも大きな天災が起きている。だからあれが何かしでかしてそなたを怒らせたとしてもせいぜい謹慎ぐらいにしておけ。殺すな。そなたの国民が半減するぞ」
「半減……それほどか」
さすがにバロジスクも驚いたのか真顔になって顎をさすった。
「そうだ。ある時、王が俺の忠告を無視して源泉の魂を持つ者を処刑したことがある。その夜、大地震が起きて王都が崩壊した。死者は何万人いたのか判らぬほどで王宮はガレキの山と化した。俺が知る限り、処刑を命じて生き残った王はいない。だから殺すな。俺もあれを殺したくはない。ツケは一回で終わらないからだ。数年は続く。大体は雨が降らないなどの天災が起きてそれが原因で国民が半減する。とにかく源泉の魂を持つ者は厄介なんだ。見つけづらい上に死なせたらこうして酷いツケがくる」
「それは非常に面倒だな、あれは軍人だ」
「そなたが処刑を命じたりしなかったら大丈夫だろう。それにまず死なぬよ。源泉の魂を持つ者は幸運を持つと言われているからな。徴兵でありながらここまで成り上がっていることがいい証拠だ。あやつらはまず戦場では死ぬことがない。まぁ敗北はあるがな」
「そうだね、でも紅竜相手に生き延びているんだから幸運なのは間違いないよ。ホルグが出兵を引き当てたのに麾下のアスターはしっかりと後方支援を引き当てて、結果的に生き延びているんだからさ」
「そういうことだ。しかも上官が死んだことで昇進している。巡り合わせもあるとはいえ、それも幸運の一つであり、あれが持って生まれた力だ」
「なるほど面白い。運を味方につけるか。確かにそれも実力の一つだな」
強者を好むバロジスクはアスターを気に入ったようだ。
「今、アスターと近い王子は誰だ?」
「うーん、やっぱり第一王子のバルドイーンじゃない?アスターはノース軍に所属していた時期があって、今も交流が続いているんだ。バルドイーンはダンケッドと交際中だからその繋がりでバルドイーン側だと思う」
「なるほど……ならば問題はないか。だが別の王子が引き当てたら面白いことになっただろうに少々残念な気もするな」
「相変わらず悪趣味だね貴方は」
「このまま次の王が決まるというのもつまらん。もう少し他の王子王女にも頑張ってほしいものだ」
つまらなそうに王は呟いた。