蝶~夢境の鳥かご~

 ルーウィーは二十代半ばの第七王子である。
 彼の母親は中流貴族の生まれであり、王宮で女官として働いている最中に王に見初められて妾となり、ルーウィーを産んだ。彼女は妾であろうと王に見初められたことは嬉しかったようだ。これで贅沢な生活が出来ると思い込んだのだ。
 しかし王は『出来が悪ければレンディに後を継がせる』、『玉座は一つ。玉座に座るべき者も一人でいい。次代を担う王子は一人いればいいのだ。王族が多くいても金が無駄に消費されるだけだ』と言ったのだ。
 そのため、母はルーウィーを連れて実家へ帰ろうとした。彼女は贅沢ができる王宮の暮らしを気に入っていたが、人並みに子供へ愛情を注ぐタイプだったのである。
 しかし王はその頼みを却下した。母が実家へ帰るのは許すが子は王宮へ残せと命じたのである。子は王の血を引く者。よって王族としての責務がある。それを成さずに王宮を去るのは許さぬと言われたのだ。
 結果、ルーウィーの母は王宮へ残った。当時、ルーウィーは幼く、母の庇護なしでは殺されることが目に見えていたためである。
 そしてルーウィーの母は強かだった。目立たぬようにしつつもしっかりと味方を作り、ルーウィーを守り続けた。ルーウィーはそんな母に感謝しているが自分が王になるのは大変難しいと思っている。長兄と次兄が強敵だからだ。
現在、正妃の子は第一王子、第二王子、第三王子、第六王子だ。そのうち、第一王子と第六王子が第一正妃の子、第二王子が第二正妃の子、第三王子が第三正妃の子だ。
 その中で第六王子クリフトは少々出来が悪い。
 第三王子は必死に頑張っているようだが第一王子と第二王子の出来が良すぎて完全に引き離されている……というのがルーウィーの見立てだ。
 世継ぎは一人でいいと王は断言している。このままではルーウィーは殺される。だが実力が匹敵している第一王子と第二王子、そのどちらかも殺されることになる。
 ルーウィーの目から見ても第一王子と第二王子は仲が良いが、王の意向がこの状態である以上、片方は殺されてしまう可能性が高い。

(けど俺は恵まれている……)

 怯えて自室すらろくに出られぬ状態で暮らしている幼い弟妹たち。
 子を守るために必死な妾たちも同じでろくに自室を出られぬ状態だ。
 勝手に作っておいて、必要がないから殺すとはどういう了見だと思う。だがこの国では実力がすべてだ。それは黒将軍たちの顔ぶれを見ても判る。貴族出身はダンケッドとギルフォードの二人のみでしかも片方は下級貴族だ。過去の黒将軍も大半が平民出身だ。王の次に権力を持つという黒将軍がこの状態なのだから実力がなければ権力は持てない。特に王族は実力がなければ生き延びることも許されない、そんな国なのだ。
 
「せめて幼い弟たちに精一杯、外で遊ばせてやりたい……そんな経験をさせてやれたら……」

 その呟きをある人物が聞いていたのだがルーウィーは気づかないままであった。