蝶~夢境の鳥かご~
ダンケッドが退出した後、アスターはカークに王宮内の情報収集を命じられた。
「えええ、俺、王宮内には何のツテもないんですが!」
「ええ、判ってます。ですから私の部下を貴方に預けます。貴方の部下という名目で王宮内に出入りさせてください。それだけで構いません」
黒将軍にはそれを可能とするだけの権力がある。黒将軍が跪くのは国王だけでいい。それぐらい大きな権力を持つことを許されているのだ。
そしてノースは知将として有名だ。それが今回はネックとなる。ノースの部下として王宮に出入りしたら周囲に警戒されてしまうのだ。ノースの側近であるカークが上流貴族の生まれであることは有名だからだ。
だがアスターならば警戒される心配がない。平民出身の新米黒将軍だからだ。側近も平民中心で王宮とは無縁な生まれの者ばかりだから、その部下たちが多少出入りしたところで警戒される可能性は低い。
「アスター、クリスト殿下をご存じですか?」
「いえ、全く。すみません、俺ホントに王族の方々については知らなくて」
「第六王子殿下です。実はあの方がノース様のお命を狙ってきたことがありましてね……」
「えええっ!!」
「幸い、ダンケッドが居合わせていて無事でした。こういうことがあるので王宮内の情報収集もしていた方がいいのですよ」
「なるほど判りました。……俺は何も判らないので指示出しはお願いします」
「ええ、貴方の部下という名目が必要なだけですから大丈夫ですよ。部下への指示は私が出しておきます」
「すみません、俺ホントに知識がなくて……」
「まぁ今までは無縁でしたでしょうから無理もありません。ですが黒将軍ともなると無関係ではいられません。最低限の知識は頭に入れておいた方がいいですよ。次代の王と目されているのが第一王子と第二王子であることはご存じですか?」
「はい、一応それぐらいは。そして仲がいいとも聞いてますが本当ですか?」
「ええ、本当です。王位を争う者同士とは思えないほど仲が良いお二人です。ダンケッドによるとお二方が子供の頃に他の王子らと熾烈な後継者争いがあったそうです」
それはカークがあまり知らない話だ。カークが生まれ育った領地は王都から少々離れていて、幼少時のカークはあまり王宮に出入りをしていなかったからだ。
一方のダンケッドは王都近くの領地出身であり、母親同士の仲がいいため、幼少時から王宮に出入りしていたらしい。
ともかくカークが王家のことを意識するようになった頃にはすでに結果が出ていた。第一王子と第二王子が他の後継者たちを引き離し、跡継ぎとしての地位を確立させていたのだ。
『何人か殺したが正当防衛だ』
ダンケッドがそう話していたのをカークは聞いたことがある。他の王族から放たれた刺客を殺したとダンケッドは話していた。それが子供の頃だったことも聞いた。つまり継承者争いは彼らの幼少期に行われており、十代後半には終わっていたのだ。
「カモフラージュのために貴方本来の部下も少し忍ばせておいてください。そうですね、第一王子殿下の護衛という名目で入れておけば王宮内をウロウロしても文句は言われないでしょう。ダンケッドには口裏合わせのために話をしておきます」
「判りました」