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◆灰〜終着の分岐点〜(11)


アスターたちが帰国して一月以上経ち、ようやくレナルドが帰ってきた。
大きな戦いの後は戦後処理が大量にあるため、多忙だったアスターたちはレナルドの帰国を歓迎した。

「遅かったなー、どうだった?」

帰国をセルジュと一緒にさせたいという依頼はデーウスからも受けていた。
レンディからも同様の連絡は受けていたので疑ってはいなかったが、やはりレナルドの口からも報告は聞きたい。
そう思って問うたアスターだったが、返答はしかめ面だった。

「痴話喧嘩」
「は?」
「迷惑だった」
「なんだそりゃ?あー、それでセルジュ様は大丈夫なのか?」

アスターの問いにレナルドは頷いた。

「うちの医者つけた」
「うちの?それってウルガ老かよ。あんなじいさんよりいい医者いるんじゃねえか?」

ウルガ老はアスターたちが兵士時代から世話になっている老人だ。
経歴が長い分、治療の腕は確かだが、何分、高齢なのが気にかかるところである。

「老眼で目が悪いしよ」
「見えないぐらいがちょうどいい」
「いや、見えなきゃ治療できねーだろ?」
「じいさん、いい医者。世の中、ヤブだらけ!」

そう断言するレナルドは珍しくも疲労気味だ。言葉も何やら実感が籠もりきってる。

「そ、そうか。じいさんは良い医者だったんだな。大切にしてやらねえといけねえな」

あの老人より悪い医者だらけとは怖いものだと思い、アスターは頷いた。
しかし、旧ベランジェール国ではいろいろなことがあったようだ。

「ところでその荷物なんだ?」
「酒」

革袋からレナルドが取り出した酒は数本。すべてが逸品である。
簡単には手に入らぬ逸品の数々にアスターは驚いた。

「すげえーっ、どうしたんだ、それっ!?」
「お礼にもらった」
「へえ、いいな。分けてくれよ、飲もうぜ!」

それはデーウスとセルジュからのお礼の品であった。
多分に迷惑料が籠もっていたのだが、レナルドはそれを遠慮無く頂いてきたのである。
一人で飲むより、皆で気持ちよく飲んだ方がお酒も美味しい。
レナルドは素直に頷き、笑った。