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◆灰〜終着の分岐点〜(10)


レンディが元ベランジェールの王都へ引き返してきて二週間が過ぎた。
その間、伝令が手紙を携えてきた。
ノースからの手紙だ。
内容は経過報告に加え、アスターから礼があったことが書かれていた。
レンディはその一文に心が温かくなるのを感じた。

(……アスター……)

レンディは血が好きだ。
この性癖は幼い頃から変化がない。
暖かな体温が残る血を浴びるのが好きだ。
生気が残る肉片を囓るのが好きだ。
レンディに死の恐怖はない。同時に生もあまりよく判らない。
ただ、アスターのことを思うとき、少しだけ胸の心音が変化する。彼にだけは嫌われたくないという感情がある。これは他の誰にも感じない想いであり、これが誰かを大切に思う気持ちなのだろうかと思う。

『坊、可愛くねーなーっ。もっと甘えろよ。俺、子供好きだから甘えても平気だぞ』

「アスター、貴方が子供を好きだというから、俺も子供を可愛がってみたよ」

『坊、お前、友達いるか?俺?俺もいいけどよ、同世代の友達作れよ、坊?』

「一応、作ってみたよ。ノースは俺を嫌ってるようだけどね」

『坊、今日は菓子があるぞ。遠慮無く食え。うまいから』

「貴方がお菓子をくれたから、今もときどき食べてるよ。やっぱり肉の方が好きだけどね」

レンディは手紙を繰り返し読み、目を閉じた。

「アスター、貴方とノースだけが俺を人でいさせてくれるよ」

いつまでも坊と呼んでくれるアスターの暖かさと、道を外れようとするレンディへ忠告を忘れないノース。その二人だけがレンディを人としていさせてくれているとレンディは思う。
青竜ディンガは何も言わない。彼はただ戦えればいいのだ。そのためにレンディの側にいる。
使い手であるレンディを大切にしてくれているのは確かだが、七竜であるディンガは人間と違った考え方と感覚を持つ。ディンガには人として良いことと悪いことの区別がない。人道がないのだ。
ディンガはレンディが非道を究めたとしても側を離れないだろう。レンディが何をしてもディンガは協力してくれるだろう。そういう意味では究極的な味方がディンガだ。

いつもひんやりと冷たいディンガの体はあまり寝心地がよくない。それでもレンディにとって幼い頃からのゆりかごがディンガの体だ。
レンディは暖かなアスターの体を思い出しつつ、眠りについた。