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◆灰〜終着の分岐点〜(5)



セルジュは夜中に目を覚ました。
ドンという大きな音に目を覚ましたのだ。
レナルドが作った簡易バリケードが揺れている。レナルドは既に起きていて、身構えている。
やがてバリケードは破られた。外からの衝撃を受け、扉が粉々に吹き飛ぶ。
それでも寝台で眠っているセルジュの元までは何も飛んでこなかった。そのようにコントロールされたのだ。

「…デーウス」
「こんなもので私を追い出したつもりなら甘い」

デーウスの視線は寝台で横たわるセルジュの元へ行き、ついで身構えているレナルドへ向かった。

「…何のつもりだ?」
「貴方は信用できない」
「……心当たりは幾つかあるが、理由は?」

自嘲気味なデーウスの台詞にレナルドはきっぱり答えた。

「馬鹿な医者をつけた」
「……医者?」
「重傷者に欲情する馬鹿医者だ」

デーウスは絶句し、ついで大きくため息を吐いた。

「すまなかった…。私の人選ミスだ」

デーウスは己が破壊した扉を振り返った。

「それでこれを……。セルジュのためか」
「…貴方は信用できない」
「随分、高い忠誠心だ。だが私を排除しようというのであれば間違っている。離れよ。そなたは私の敵ではない」

レナルドは身構えたままだ。

「よせ、レナルド。大丈夫だ。デーウスとは戦うな!」

セルジュの制止にもレナルドは動かない。
セルジュはゾッと背を振るわせた。黒将軍のデーウス相手ではただの騎士は適わない。間違いなくデーウスの圧勝となるだろう。

「よせ、レナルド。大丈夫だ!!」
「でも貴方、彼を嫌っている」

身構えたままレナルドは告げた。

「アスターは貴方を頼むと言った」

アスターに託された。だから守るのだとレナルド。
圧倒的実力差のある相手にも退かぬレナルドにセルジュは絶句した。

「……レナルド……」

その心はデーウスにも通じたらしい。
デーウスは元々人望高い人物でその高潔な心は広く知られている。本来、けして非道なことをする人物ではないのだ。

「アスター赤将軍はよき部下を持ったものだ。よかろう、今日のところは退こう」
「……医者」
「あぁ、すまなかった。別の者に変えておく」

レナルドはデーウスが部屋をでていくまで警戒心を解かなかった。
随分嫌われたものだとデーウスは苦笑した。


++++++


扉が壊されたため、レナルドに無事な別室へ移してもらい、セルジュは眠りについた。
相変わらずレナルドは側についてくれている。
床に眠らせるのを申し訳なく思い、別室で眠ってよいと告げたが、レナルドは応じようとしなかった。
彼曰く、どんなところでも眠れる上、野宿の方が慣れているそうだ。
それはレナルドの本心であったが、レナルドの本職が狩人であることを知らぬセルジュは、レナルドが気を使ってくれているのだろうと思い、申し訳なく思った。

その夜、セルジュは夢を見た。
デーウスと二人で在る未来を信じていた頃の夢であった。