セルジュは重傷であったため、体が殆ど動かせない状態であった。当然、要介護の状態となる。
プライドの高いセルジュには体をいいように動かされるのは屈辱であった。たとえ治療のためとはいえ、堪えられるものとそうでないものがある。
(数多くの者達に体を見られてたまるか!!)
「離せ、私に触れるな!!」
「動けないお体なのに何をおっしゃられるのです。排泄などの処理もしなければなりません」
「…っ!!」
嘲笑を含んだ声音で言われるのが堪えられない。
しかし世話をされぬわけにはいかない。セルジュは体が動かせないからだ。
好きに命じられるセルジュの部下はいない。心通じた側近は多くが負傷、もしくは亡くなったという。
セルジュの軍は戦傷者が多く、医師や介護士たちも余裕がないらしい。そのためセルジュ自身はデーウス軍に預けられている状態なのだという。
人手不足という状況を見れば治療をしてもらうだけありがたく思えと言ったところだろう。しかし体をじろじろと見られ、いいように扱われる屈辱は耐え難いものがあった。
救いの手は思いがけぬ形で差し伸べられた。
「お前ら、出ていけ」
部屋の外から無言で入ってきた眼の細い青年が、介護担当の男たちに告げたのである。
「何を…俺たちは治療のために来ているわけであって…」
「一人でいい。四人もいらない」
「お体の清掃や消毒などが必要で…」
「一人でいい」
淡々と告げる付き人の青年は突然、間近にいた男の股間を蹴り上げた。
「治療にここをでかくしている男などいらない。でていけ」
次は蹴り潰す、と付き人の青年は淡々と告げた。
それが誇張でないことは無表情な青年の身から溢れる無言の気迫から感じられた。
戦場を知る者の殺気だ。
介護の男達は真っ青になり、一人残らず部屋を出て行った。