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◆赤〜温かき生の紅〜(12)


レナルドは己の馬にセルジュを乗せた状態で東へ逃げていた。
本来、東は王都と正反対の方角だ。当然、エドワールたちには疑問を持たれたが、レナルドは彼独自の情報網を持っていた。
レナルドは闇の印を持っている。彼の持つ印は霊を視認することが出来、会話が可能なのだ。

(セルジュ軍の後方支援部隊がどこにいるか判らない。アスター部隊の支援部隊は激戦区に入ってしまって余裕がない。他部隊に行った方が早い)

レナルドは霊たちからデーウス軍が間近まで来ていることを聞いていた。そしてその場所は自分たちがいる場所からそう遠くなかった。
今いる場所は混戦となっていて、どの部隊がどの辺りにいるのかよく判らない。しかしデーウス部隊はまだそこまで戦闘に巻き込まれていない。戦力も温存してあり、余裕がある。
レナルドは確実な方を選んだのである。
そしてその判断は正しかった。
デーウス軍の最先端にいた騎士たちは驚いた様子でレナルドたちを迎えてくれた。

「なんだ、そなたら……なっ、セルジュ様!!??」
「酷い傷だ。急ぎ医者を呼べ!!!」

驚きが広がる中、一人の将がやってきた。
黒いコートでその身分を明らかにしているその人物は悲痛な表情で手を伸ばし、血や泥で汚れたセルジュの頬に触れた。

「セルジュ……久しぶりだ。まさかこんな形で再会しようとは……」

意識がないセルジュの返答はない。出血のせいでひどく顔色が悪い。
その様子を見守るレナルドは二人の関係を知らない。ただ、黒将軍の方がセルジュを大切に思ってることだけは何となく伝わってきた。何とも思っていなければわざわざ一軍の将が怪我人の元へ来たりしないだろう。安心して託せる。

「そなた、所属と名は?」
「アスター赤将軍麾下、レナルド」
「そうか。レナルド、礼を言う。この混戦の最中、よくセルジュを助けてくれた。アスター部隊と合流するまでは我が麾下にいるがいい」
「御意」

デーウスはセルジュを見つめたまま、眼を細め、後ろに立つ青将軍二人へ告げた。

「スターリング、ギルフォード、行け。敵を蹴散らし、レンディの軍と挟み撃ちにしろ。……一兵も残すな」
「「御意!!」」

自ら、セルジュを抱き上げながらデーウスは目を伏せた。

「セルジュ…必ず仇をとってやるからな」