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◆赤〜温かき生の紅〜(10)

危機一髪で救い出した青将軍セルジュは重傷だった。
青いコートは戦場で標的となる。
アスターは目立つ青いコートをセルジュから引きはがすと放り捨てた。今は彼を救うのが先だ。
本来、将軍位のコートは騎士の誇りだ。将軍の証として誇らしげに身につける。けして脱ぎ捨てはしない。
しかし、兵卒出身のアスターは良くも悪くもそういったことにこだわりがなかった。

セルジュの身は大変危険な状態だった。すぐに治療をする必要がある。
しかしそのためにはこの場を離れなければならない。
アスターは隊を持つ身であり、自ら動くわけにはいかなかった。

(同じ赤将軍じゃ駄目だ。託せない。隊の指揮がある)

こんなとき、上位としての責任を感じる。一般兵の時のような身軽さは今のアスターにはないのだ。

(だがトマとエドワールだけじゃ駄目だ)

防御と補佐を得意とする友人たち。誰かの手伝いとしては頼りになるがセルジュを託すには不安が残る。
アスターは側にいるレナルドを振り返った。
本来、彼も己の隊を持つ身だが、何故か一人でいる。どうやら指揮は最初からしていないようだ。彼の隊がどうなっているのか判らないが、まともに隊が動いているところを見ると、別の誰かがレナルドの隊を指揮しているのだろう。一体誰が指揮しているのか気になるところだが、今はそれを追求している場合ではない。

「レナルド、セルジュ様を頼む。何よりも命を最優先し、助けてくれ!!エド、トマも頼んだぞ」
「判った」
「うん!!」
「はいっ!!」

そのとき、シプリに名を呼ばれた。隊を任せていたがそろそろ限界なのだろう。

「今行く!!…頼んだぞ、どんな手を使っても助けてくれ」

アスターは長棒を握りなおした。
彼は彼でここを生き延びる必要がある。今はこの危機を乗り越えなければならないのだ。