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◆赤〜温かき生の紅〜(9)

翌日、砦に一部を置いて、出陣したアスターたちは、三日目に王都の手前でレンディ軍と合流した。
正しくは包囲されかけているレンディ軍の窮地を救ったのだ。
アスターとイーガムは合わせると1000兵近い数になる。敵としてもけして無視できない数なのだ。

「いくらレンディ様でもこの数の差じゃ厳しいだろ」

ノース軍本隊が王都を占拠する時間稼ぎをレンディ軍が行うとは聞いていた。
しかし敵国も必死だ。その必死の攻勢をレンディ軍が一つで引き受けている。
敵国の兵数はレンディ軍のおよそ三倍はあるようだ。それを考えるとよく持ちこたえている。

「ジオン、大丈夫か!?」

戦場でセルジュ軍の顔なじみの赤将軍を見つけて声をかけるとジオンは返り血で真っ赤な状態であった。

「いや……俺よりセルジュ様を頼む。ここは何とか持ちこたえられそうだ」
「判った。一隊預ける……マドック!ジオン隊を援護してくれ!」
「おぅ!」

激戦だ。セルジュの元へ駆けつけるのも楽ではない。
特に赤将軍としての赤いコートが敵の目を引きつける。どうしても狙われがちだ。
そうしているうちにようやくセルジュらしき人物を見つけた。青いコートなのでほぼ間違いはないだろう。
まずい、危ない。
そう思った瞬間、隣から矢が飛んだ。レナルドだ。
遠距離攻撃に怯んだ隙をアスターは見逃さなかった。敵とセルジュの間に割って入り、セルジュへの攻撃を受け止めた。

「ふー、ギリギリ間に合ったか」
「…アスター!?」
「エド、トマ、セルジュ様を頼む!!」
「うんっ!!」
「判りましたっ!!」

セルジュはパッと見ただけでも重傷だ。

「待て、私はまだ……!!」

セルジュは嫌がるように抵抗を見せたが、エドワールとトマの二人がかりでは無駄な抵抗であった。幾らセルジュといえども重傷の体で男二人から逃げるのは不可能である。
いつものようにエドワールが防御陣を発動させ、トマが地神の手で補助する様子を確認し、アスターは長棒を構えなおした。
新たな敵、アスターに対し、敵将が好戦的に笑む。

「そなた、名は?」
「アスター。アスター・フィ・オルディオ。ノース軍カーク部隊所属だ」
「知将麾下の将だと!?レンディ部隊ではないのか」
「ああ…。あんた、いい男って奴かな。捕らえないと…」

その時、縄が飛んできた。目の前に立つ将が驚き、とっさに避けようとする。
アスターはその隙を見逃さなかった。思いきり棒を叩き込む。

「新技失敗」
「レナルド!」

相変わらず謎の多い部下だ。この混戦でよくこちらを見ている余裕があったものである。

「いや、十分成功だ。おかげで捕虜に出来たぞ!」
「戦場、死霊多い。動きやすい」
「はぁ?死霊多くても生きてる敵も多いだろ!?」

ともかく敵将を生け捕れたのは確かだ。これで少しは動きやすくなるだろう。
そう思っていると、遠くに見える大蛇が大きく揺れた。
山のような大蛇の姿に背が震える。

「怖えな……」

あの大蛇を従えているのだから本当に七竜の使い手というのは化け物だと思う。

「……あれが青竜の使い手、か…」