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◆赤〜温かき生の紅〜(5)

同僚達に同情されているアスターは幸いながら一人きりではなかった。
しかし、濃い授業であることに代わりはなく、精神的に疲労気味であった。

(ほんっとに変わった上官だよなー)

赤将軍用の研修は知将ノースの公舎の一角で行われていた。
広めの会議室には丸テーブル。
同席者は同じカーク麾下の赤将軍であるイーガムとマクシリオンだ。

イーガムは軍人としてはやや小柄な青年だ。白い肌と髪、そして赤い目をしている。目つきが悪く、お世辞にも性格は良いように見えない。しかしその容貌からうさぎみたいだなとアスターは思った。
マクシリオンはカークの気に入りだという騎士である。
短い黒髪と黒い目を持つ体格のいい青年で、実直そうな性格に見えた。
アスターとしてはマクシリオンに好印象を持ったが、当人はカーク以外の人物に全く目を向けようとしなかった。他人に目を向けるような精神的余裕がないらしく、カークの一挙一動を凝視している。その様子を見て、アスターは上官カークに対し、不安を抱いた。

研修は騎士としての礼儀作法から始まった。
騎士は人の模範となる身だ。最初は真面目に聞いていたアスターも授業が紅茶の正しい入れ方やティーカップの選び方、口付けの仕方にまで話が及ぶうちにこれはおかしいと思い始めた。
しかし、気を逸らすとカークの指導が飛んでくるため、真面目に聞かないわけにはいかないのである。
幸い、器用なアスターは覚えが早く、カークに褒められることができた。

(なかなかやるじゃん、俺!)

もちろん、隊の運営についての授業も含まれている。
しかし明らかに関係のない授業まで含まれているのでときどき何とも言えない気持ちになるアスターである。
特に『敵将に良き男を見つけたときの捕獲方法について』が一番熱心な指導だったというのが何とも言えない。おかげで余計な知識がどんどん増えていくアスターである。

(ノース様って頭のいい人だって聞いてるんだけどよ。なんでこの人を側近にしているんだろうなぁ。んん?まさかこの授業もノース様の指示によるものか?)

「アスター、気を逸らしてはいけませんよ!さぁ、よき縛りを実践して見せなさい!」
「は、はいっ!」
「いいですか?素早く隙を逃さないのがポイントですよ!」
「はいっ」

良き男を捕らえるためのロープ術が得意となっていくアスターであった。