武器が長棒のため、敵を生け捕ったアスターは、戦いの後、思わぬ報酬を貰うこととなった。
「よくやりました!!」
上司である青将軍カークが大喜びだったのである。
アスターが捕らえた男はどうやら彼好みの男だったらしく、カークは上機嫌で捕虜となった敵将を引き取り、アスターへは出世と報酬を約束してくれた。
「喜びなさい。貴方は私の側近の一人にして差し上げましょう。人手不足だからちょうどよかったとも言えます。少々手足が長いのが難ですが、貴方、顔と背はまぁまぁですからね。我が精鋭部隊に入れることを誇りと思いなさい。今後も私好みの男を捕らえてくることを期待していますよ」
大喜びのカークは太っ腹のつもりなのだろう。しかしかなり私情が籠もっているようだ。
引退が目標のアスターは思わぬ事態に顔を引きつらせたのであった。
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アスターに用意された階級はいきなり赤だった。
カークは本気でアスターを側近にするつもりらしい。アスターは将軍になってしまったのである。
「カーク部隊か」
「運がいいんだか、悪いんだか」
やはり巻き込まれて辞めそこなったシプリはため息を吐いた。
「謎」
ぽつりとレナルドが呟く。確かにカークは謎だとアスターも思う。
「ま!知将の部隊だから生き延びる可能性は高そうだけどね。アホより頭のいい人の方がいいしさ」
そういうシプリはすっかりあきらめ顔だ。彼も戦場での奮戦が評価され、一つ上がって騎士隊長になった。同じ階級になったのは他にホーシャム、マドック、レナルドだ。
ホーシャムは目指せ将軍と張り切っている。そして意外にも彼の隊は戦場での死亡率は低かった。彼の隊はアスターの隊と同じく一般兵ばかりだがベテラン兵が多かったのだ。
ちなみにレナルドは敵の隊長を一人捕らえていた。それが評価されたという。
「股間を一撃!しかも容赦なく!男として立ち直れたのかどうか…。見ているだけで痛かったよ」
目撃していたというシプリの証言にアスターは顔を引きつらせた。
敵とはいえ、同じ男として同情せずにいられない。股間に男の渾身の蹴りを受けたのであれば無事で済むはずがない。
「お、お前……いや、しょうがなかったのかもしれねえけどよ…」
「仕方ない」
無情なほどあっさりと答えるレナルドに味方までもが恐怖の視線を向ける。
一方、出世し損ねたエドワールとトマは意外と元気だった。新人騎士が情けなかったことが彼等の自信に繋がったらしい。助けられた騎士たちもエドワールたちを見直したことで、人間関係が改善されたようだった。
「昔の僕もあぁだったのかなぁ…」
そう言って照れたように笑うエドワールにアスターは苦笑した。否定はできない。確かにお荷物だったからだ。しかしここまで成長した。そのことこそがこの歳月が無駄ではなかったという証ではないかとアスターは思った。