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◆白〜終わりの見えぬ道を歩むこと〜(6)

一方、アスターたちはノース軍の一員として戦場に出ていた。
ガルバドスの南東に位置する国ニーイルとの戦いである。

「おいおい、大丈夫か?ありゃあ…」
「うーん……やばそうだよね」

アスターとシプリは自軍の動きを見て、顔をしかめた。
戦場に出て四年目ともなると経験上、それなりに状況が読めるようになる。アスターたちはレンディ部隊で過酷な戦場をくぐり抜けてきたので尚更であった。
アスターたちが見たところ、新人騎士が中心の一隊が無謀な動きを取ろうとしていた。

「ありゃあ、絶対突かれるな」
「自衛するよ。巻き込まれる筋合いはないし」
「…だな」

アスターとシプリの予想は当たり、マズイと思った瞬間、突撃してくる敵の一隊が目に入った。

「うぉっ!?早っ!!」
「もー、最悪だよ!うちの隊に近すぎるしっ!!」

シプリが大きく舌打ちし、悪態をつく。

「だな。見事に巻き込まれーってか」

襲いかかってきた一人を長棒で弾き飛ばしつつ、アスターは頷く。その隣で弓を構えつつ、レナルドも同意するように頷いた。

「迷惑」

淡々とした短い声だが、低く鋭い。彼なりに怒っているのだろう。

アスターたちの前方で急襲を受けた新人騎士達はみるみるうちに倒されていく。元々、戦場経験がほとんど無い新人ばかりだ。急襲に堪えきれるほどの強さはないのである。狼狽する騎士達は次々に切られていく。
そして騎士達を倒した一隊はその後方に布陣するアスターたちの隊までやってこようとしていた。

「やべ、本格的に巻き込まれるぞ!」
「けど退くには遅すぎるでしょ!?」
「うっ……まぁな」

やるっきゃねえかと覚悟を決めたとき、隣から声が飛んだ。

「助太刀するぞ!!」
「じいさん!?」

ホーシャムだ。マドックもいる。どうやらそれぞれに隊を率いて駆けつけてきてくれたらしい。元々近くに布陣していたこともあり、こちらの状況が見えていたようだ。

「ホッホッホ!!突撃、突撃、突撃じゃーっ!!」
「うぉ!?じいさん、無謀だろ、それはっ!?」

ホーシャムやアスターたちの部下はそれぞれ30〜50人いるかいないかだ。小隊なのだ。しかも構成は全員兵士。ようするに徴兵された兵の集まりで素人だらけだ。
加えて、敵の隊はどう見てもそれなりの精鋭だ。こちらの隙を見逃さず、しっかり攻撃してきたくらいだから間違いない。部下は素人兵士が殆どのアスターやホーシャムの隊で太刀打ちできる敵ではない。

「ホーシャム隊を援護しろ!!こちらも突撃するぞ!!」

こうなったら数で何とかするしかない。助けてくれようとするホーシャムを見捨てるなどできるはずがない。アスターは慌てて配下に指示を出しつつ、自分も突撃した。


++++++


「もう、さいあく、さいあくーっ!!」

シプリがキレつつ、敵を切り捨てている。シプリはキレたとき、大変強い。
一方、アスターはいきなり、強い相手と出会っていた。

「…あんた、敵将か?」

明らかに他の敵と雰囲気が違う。アスターは顔を引きつらせつつ問うた。

「さて……そうだとしたらどうする?」
「…いや、戦うだけ、だけどな」

逃れられない以上、戦うしかない。しかし勝てる自信もない。ただの一兵卒出身の騎士、それがアスターなのだ。

(くそぉ、運がねえよな、俺。いろいろとよ。あー、神様、師匠、オヤジ、お袋、どうか俺に力を!!)

殆ど祈ったことのない相手に祈りつつ、アスターは棒を構えた。


++++++


一方、その頃、アスターの同僚たちはそれぞれに激戦中であった。
中でも厄介なのはアスターに他の敵を近づけないことだ。明らかに将の一人と戦っているアスターに周囲へ気を配る余裕があるわけがないのだ。
通常、一騎打ちの場合、他者は手を出さないのが通例だが、今はそれを言ってられないような混戦模様となっていた。

一番奮戦しているのはシプリ。剣が得意な彼は混戦にも有利だ。確実に一人ずつ敵を仕留めている。
その彼と協力して戦っているのはレナルドだ。混戦となれば弓矢は不利だが、彼は目が良く、素早い。敵の攻撃をうまく躱しつつ、体術で応戦している。その際、容赦なく股間を蹴ることを忘れない彼はある意味、一番卑怯で確実な戦法で敵を倒している。
そして、一番不安なエドワールとトマは意外にも味方のピンチを救っていた。エドワールは戦意を失って逃げようとする新人騎士を捕まえて平手打ちしたのである。

「頑張ってください!!僕だってこうやって頑張ってるんですよ!!貴方、騎士でしょ!?」
「そうですっ!!坊ちゃまがこれほど頑張っておられるのに、ちゃんとした騎士の貴方が何をやってらっしゃるんですかっ!!」

そうして今は立ち直らせた新人騎士らと力をあわせて戦っている。
アスターが見ていれば、やればできるもんだと呟いたことだろう。
そうしている間にアスターは敵を倒していた。

「よっと!!」
「よくやった!!アスターッ!!」
「おお、アスター、よくやったのぉ!!」
「敵将、討ち取ったり!!」

ワッと周囲から歓声が上がる。
アスターが討ち取った将はかなりの大物だったらしい。敵は急に戦意を失い、撤退していく。
そしてその間に知将は急所を突かれたところから陣形を変更し、その突かれた部分を覆い囲むように陣を変化させ、窮地を切り抜けていた。さすがは知将というべきだろうか。対応が早い。もっとも陣形変更のスピードの速さを考えると多少、事態を予測し、読んでいたのかもしれない。
戦いは無事、ガルバドス側の勝利となった。