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◆創〜終わりを望む始まりの話〜(7)

ガルバドス国では、徴兵は何事もなければ三階級あがる。
一年目は一等兵、二年目は二等兵、三年目は三等兵だ。実に判りやすくできている。
しかし徴兵期間の給与は一定額なので、階級が上がっても差はない。徴兵された兵同士、生き延びることが先決となるため、階級などによる争い事もなく、お互いに頑張ろうという精神で皆が必死に頑張る。そんな風潮ができている。
アスターは三年目にして兵隊長になっていた。敵兵の隊長の首をとってきたことがあったり、破壊された砦を完璧に修復したことなどが功績として評価されたのである。
アスターにしてみれば本職だったことと、生き延びるために必死に戦っただけなのだが、報奨されれば断るわけにはいかない。結果的に出世してしまっていた。

(けど、こいつらもなんだよな。意外っつーか…)

アスターの同期たちは全員生き延びていた。
服にうるさいシプリは実家が軍人家系ということで一通りの武術を身につけている。それが幸いしたのかアスターと同じように敵の首を取ったりして同階級まで出世していた。
同じく無口なレナルドも特技の弓矢で淡々と功績を上げ、しっかり同じ階級だ。
意外なのはエドワールたちだろう。何と彼等も同階級であった。

(印が得意とは思わなかったなー…)

戦場に出る機会が多くなり、死にたくない一心でエドワールは手持ちの印である土の印の防御技を一生懸命に練習しつづけたのだ。それでもエドワールが覚えたのは防御壁だけ、トマが覚えたのは地神の手だけだ。
しかし、その組み合わせが結果的に防御と攪乱を受け持つ結果となり、アスターたちのよきサポート役として成長した。同じ印も練習し続ければ威力がアップする。二人はその典型だろう。二人とも発動スピードが上がり、威力も増した。

(人間、死ぬ気になれば何とかなるって、よき見本だなー…)

そのアスターたちはレンディ部隊に所属していた。遠い上官である青将軍セルジュが現在はレンディ軍に所属しているためである。
レンディ軍はエリート部隊であると同時に常に最前線に配属される軍だ。当然ながら戦場に出る機会が多く、熾烈な戦いをこなすことになる。死亡率も高いので、一般兵には嫌われている部署でもある。

(我ながらよく生き延びてるよなー)

セルジュとアスターは未だに接する機会がなく、結果的に知らないまま、約三年という月日が経とうとしていた。


++++++


「俺はぁ、軍を辞めたらぁ、腕の良い被服師の元に再度弟子入りして、王宮御用達のカリスマ被服師になるのっ!!」
「ぼ、僕は腕の良い町長になりますっ!」
「素晴らしき目標でございます、坊ちゃまっ!!」
「……俺、カリスマ狩人」
「お前ら、酒乱かよー?」

酒が入れば同じ会話を繰り返す同僚たちを前にし、アスターはため息を吐いた。

「俺はカリスマ建築士だけどな!」

思わず会話に加わっている辺り、彼も同類と見なされていることに気付かず、アスターはカレンダーを見た。
あと三ヶ月で徴兵期間も終わりだ。近く、戦場に出向かねばならないが、何とか生き延びて帰ることができそうだ。彼等の語る夢も現実に近いところまで来ていると言えるだろう。

(一人も欠けることなく生き延びることができりゃいいがなー…)

そんなことを思いつつ、手は木片を握っている。
最近、チェスを覚えてきた子供のために手製の駒を作っているのだ。
仕事の合間に顔なじみの子供のための玩具を作るのはアスターの一つの楽しみであった。

(そろそろあの子供にも俺の実家のことを教えてやらねえとな)

子供と一緒に家に戻り、建築士として修行をするのだ。
そんな未来をアスターは疑っていなかった。