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◆創〜終わりを望む始まりの話〜(6)

戦いはガルバドス国側の勝利に終わった。

(あー、気持ち悪ぃ……)

戦場での遺品探しは一般兵の仕事だ。
騎士でも兵士でも階級章を身につけている。死んだ仲間のそれを集めるのが彼等の仕事だ。

(けどあいつも頑張ってるし…)

エドワールも卒倒しそうな顔ながらも必死に集めている。その様を見れば逃げることも出来ず、アスターは周囲を見回した。
周囲は荒野だ。主に印による破壊で巨大な岩や石がごろごろとしている。この辺りは戦場でもっとも過酷な争いが行われた場所なのだろう。
地の印による跡と思われる大岩の裏側を覗いたアスターはそこに子供がいることにきづいた。子供だが騎士服らしきものを身につけている。体には装飾のように巻き付いた鎖。手には肉片を持っている。

「おい、坊主。お前ここで何してんだ?危ないぞ。上官はどうした?」

ガルバドスには少年兵がいる。仕事内容は雑用だが、そうやって仕事をさせて養うのが目的だ。危険な戦場に連れていかれたり、血を見る仕事も多いので、少年兵は孤児が中心である。保護者がいる子供はならないのだ。

きょとんとした子供にアスターは笑みかけ、そのまま肩に担いだ。

「ほーら、坊主高いだろー?腹減ってるのか?肉はちゃんと料理してやるからそいつは食うな。生はな、腹をこわしやすいんだ。俺はちょっと仕事あるからちょっと付き合ってくれよな。ちゃんと仕事したら国へ一緒に帰ろうぜ」

アスターは子供に慣れている。通っていた武術道場に子供が多く通っていたためだ。
子供好きのアスターは少年に躊躇いを持たなかった。
いい子にしてたらおもちゃを作ってやるぞ、とアスターは告げた。

「おもちゃ…?」

怪訝そうな子供におもちゃを知らないのか、とアスターは少し驚いた。
10歳ちょっとの子供がおもちゃを知らないということはそれだけ愛された経験がないのだろう。

「あぁ。俺は木とかブリキのおもちゃを作るのが得意なんだ。坊、お前幾つだ?」

肩の上できょとんとしている少年はアスターに問われて首をかしげた。

「…わかんない」
「そうか、じゃ…12ってことにしておけ」

年齢の判らぬ孤児は多いものだ。しかし年齢が判らないのは何かと不便である。そのため、アスターはサラッとそう告げつつ、周囲を見回した。とにかく遺品探しが今の仕事なのである。

「暖かい……」
「ん?そうかぁ?」
「蛇、冷たい」
「そりゃそうだろ。蛇はそういう生き物だ。蛇が好きなのか?」

生で肉を食っていたり、蛇と体温を比べたり、おかしな子供だとアスターは思った。

「すき……?わかんない」
「そうか。お前、さっき、肉食ってただろ?焼いた肉と生、どっちが食いたい?」
「生」
「じゃそういうことだ。好きにはいろいろあるけど、そういうのが好きってことだぜ」
「へえ……?」

知らぬ事を知ったのが面白かったのか、肩の上の少年は目を輝かせた。

「フフ……面白い」
「そうか?お前変な奴だなー」
「俺、そろそろ帰る。面白かった」
「え?大丈夫か?帰り道、判るんだろうな?」

うん、と頷いて笑った子供をアスターは下ろした。

「坊、いくら好きでも肉はなるべく生で食うなよ、腹壊すぞ?」

アスターはひらりと手を振り、去っていく少年を見送った。