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◆オルブレロ地区教会とある建築士の話(7)


スターリングはとにかく見目の良い男である。艶やかな黒髪に鮮やかな蒼い瞳の彼は文字通り、誰もが振り返るような容姿の良さを誇っている。
中身は独特の考え方のせいでトラブルを起こしたり、誤解されたりしがちだが、当人は大いに真面目に努力しているのである。
そんな彼は、基本的に人と人との交流や交際には前向きな人物である。
彼は見目の良さから幾度も交際の申し出を受けてきた。
その独特の性格から周囲にあまり人がいなかった彼は、そのことを寂しく思っていたため、交際を申し込まれたときは受け入れることが多かった。
ところがどの交際も長続きしなかった。彼の善意が受け入れてもらえず、トラブルに発展して、振られるというパターンが続出したのである。
彼なりの善意はいつも悪しき結果に終わってしまうのであった。
そのたびに交際相手との仲介をしてくれたギルフォードは呆れ気味にスターリングを説教したが、スターリングにしてみれば彼なりに大いに真面目に考えて行動した結果なのだ。彼とて不本意だったし、傷ついた。フラれるという結果は少なからず傷つくものなのだ。悪しきように言われてフラれれば尚更だ。

(ほとんどが女性だ。今度は男性にしてみようか……)

そう思いつつも度重なる失恋にいいかげん嫌気が差していたとき、ギルフォードが見合いの話を持ってきた。
ギルフォードが交際の仲介をしてくれるのは初めてだ。彼はいつだって拗れた結果の後始末ばかりで交際の話自体を持ってきてくれたことはなかった。
オマケに相手は男だという。
少し期待して会ってみることにした。

(似ているな……)

そうして会った見合い相手は、ギルフォードに性格が似ていた。
相手は真面目で仕事一筋でやってきたらしい。そんなところもギルフォードに似ている。ギルフォードも真面目で仕事一筋でやってきた経歴の持ち主だ。

(いいな)

おかしいと思ったら苦情を言ってくるし、自分の意見もハッキリ口にする。
大人しいばかりだった箱入り娘や我が儘ばかりのお嬢様とは違い、一本筋の通ったところのある人物だ。スターリングは好印象を抱いた。

(今度は大丈夫かもしれない)

恋愛に疲れ、人と深く接することに忌避感を抱いていたスターリングだったが、タヴィーザとの交際には希望を抱くことが出来た。

(これを最後にしよう)

幾度もの失恋は疲れた。
変わり者だと言われ、あまり傷つかないように思われているスターリングだが、彼にも感情があるのだ。幾度もの失恋には彼も傷つき、嫌気が差していた。
うまくいってもいかなくても、これを最後の恋にしよう。
そう密かに決心しつつ、スターリングはタヴィーザと付き合うことを決めたのである。