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◆学舎の雫(12)


裏で広まりかけていた悪しき媚薬となる麻薬は、カークの調べによって迅速に取り締まることができた。
その調査の過程で貴族の一部が麻薬の販売に手を出そうとしていたことが判明した。スター家とディアブ家がその中に含まれていた。襲ってきた連中の組織とは販売ルートなどの件で揉めていたという。思わぬところで繋がりが発覚したこととなった。
そうしてその問題も片付いた頃、ノースは思わぬ悩みを抱えることとなった。

「何で君が護衛なんだい?」
「おや、私のどこにご不満が?」
「カーク。君自ら護衛してくれなくていい」
「おや、おかしなことを。普段からノース様の護衛は私が一番しているでしょうに」

確かにそうだ。ノースはカークと出会って以来、長い時間を共にしている。一番執務室にいて、一番側にいてくれるのがカークだ。そういう意味では一番親しい側近とも言えるだろう。あくまでも仕事上での関係だが。

ちらりと執務室のソファーでお茶を飲んでいる男を見ると、視線に気付いた男は目で頷いた。

「行ってもいい」

ダンケッドも身が空いているらしい。護衛をしてもいいという。
しかし…。

(公舎内部でならともかく、街や学校では目立ちすぎる……)

大柄で長身のダンケッド。
黒みがかった赤い長髪のカーク。

この二人は容姿がいい。タイプは違うがどちらもかなり見栄えのする上、とても有名な青将軍だ。
この二人を連れ歩いていたら、正体をアピールしながら歩いているようなものだ。幾らすでにバレているからと言って、学校の授業に連れていきたくはない。悪目立ちしすぎる。

「……ディルクに頼むよ」
「おや、そうですか」
「わかった」

別の側近に頼むことを告げると、二人の側近は意外にもあっさりと引き下がってくれた。
単にディルクの方がまだ目立たないだろうという基準で選んだだけだったが、ダンケッドとカークを納得させることはできたらしい。

(ディルクは信頼されているんだな)

側近達の意外な関係に少し驚きつつ、ノースは少し嬉しく思った。麾下の将たちの間に信頼関係があるというのは良いことだ。
そう思い、上機嫌で執務室を出たノースはその後の側近たちの会話を聞かなかった。

「やっとディルクにも春の兆しが見えそうですね」
「今までのことを考えれば、まだまだ前途多難だろうがな」
「そういえばこの間、勝手に学舎に迎えに行って怒られてましたね」
「レンディ軍からの書類を見て飛び出して行って、止める暇もなかった」
「ディルクはそれぐらい行動的な方が似合いますよ。それにこういうのは兆しが見えると、意外と一気に進むものなのですよ、ダンケッド」
「一気に進みすぎて、雪崩を起こして、跡形もなく消え去らなかったらいいがな」
「進みすぎて、破局まっしぐらですか。ありえそうですねえ…」

上司の恋愛を応援しているのか反対しているのか判らないような会話を交わす側近二人であった。

<END>
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