数日後、アスターは困っていた。
ダンケッドから礼に贈られてきたのは古い家具。骨董品の一つのようだが、味わいがあり、アスターは素直に喜んだ。
問題は元上司カークからの礼だ。
『貴方も青将軍となったからには、そろそろハーレムを持つのもよいかと思います。礼に私自ら調教したよき男をプレゼントしましょう。一緒に捕虜収容所へ素材となる男を捜しに行きませんか?』
そんな風に書かれたカークからの手紙を手に、アスターは困惑して頭を書いた。
今は同地位とはいえ、カークは元上官だ。どうにも逆らいにくい。
しかし、調教の技など興味がないし、調教済みのよき男とやらを譲られても扱いに困る。
幸いなのは、まだ調教してはいないということだ。調教したい男を捜しに行こうという誘いであり、今ならば食い止めることができる。
ノースからはシンプルに礼を記しただけの手紙が送られてきた。礼ならばこれぐらいがちょうどいい。少なくとも扱いに困らずに済む。彼のことだ、実質的な礼は仕事などで返してくれるつもりなのだろう。
(あー、でも捕虜収容所ならば、部下に出来そうな男がいるかもしれない)
今の側近ザクセンも元は銀牢と呼ばれる牢で見つけたのだ。掘り出し物がいるかもしれない。それにそのときもカークと一緒だった。験担ぎではないが、またよき部下を見つけることができたらラッキーではないか。
一緒に行くことにより、カークからの誘いを完全に断ることにもならないため、角が立たずに済む。カークの誘いは過去何度か断っているため断りにくいのだ。
「よし、カーク様とよき男を捜しに行くか!」
「待て!!正気か!?」
アスターの思考の流れを知らないザクセンは、アスターが唐突に『よき男を探しに行く』と言ったように聞こえた。横になっていたソファーから飛び起きる。
「あぁ間違った。『よき部下を捜しに行く』」
「どこへ探しに行くんだ?」
「ええと……捕虜収容所って書かれてるぜ」
手にした手紙を奪われる。
「何故探しに行くんだ。俺だけじゃ不満なのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどよー。よき部下はよき宝だろ。誘われたからには完全に断るのもあれだしな。まぁちょっと行ってくるだけだ」
しかし、そんな説明では手紙を読んだザクセンを納得させることができなかった。
「ほぉ……調教の技を教えてもらい、調教した男を受け取りにいくというわけか」
「いや、違うぞ、ザクセン!」
「どこがどう違うんだ?手紙にはそう書かれているだろうが」
「だから誤解だって。調教した男を受け取りにいくつもりはねえって」
「もー。調教、調教って何の話なのさ、恥ずかしい!他の人に聞かれたらどうするのさ?」
いつの間にか親友シプリが来ていたらしい。書類を手に呆れ顔をしている。
シプリはザクセンが無言で差し出した手紙を読み、眉を上げた。
「呆れた。行くつもりなのかい?」
「あー、もしかしたら良い部下が見つかるかもしれないだろ?」
「その前に調教の技を伝授されて喰われる可能性を考えた方がいいと思うよ、君は」
全くだと言わんばかりにザクセンが頷く。
「いやいや、俺はカーク様の好みじゃないからその心配はいらねえって」
「好みじゃなくても、練習という名目で喰われる可能性はあると思うけどね。どっちにしろ却下するよ、アスター。ちょっと現場で君の力が借りたいんだ。砦を作る予定の土地が少々厄介なんだよ。君に見てほしいと部下たちが言っている」
「おー、パシーテの砦のことだろ!そこは俺も気になってたんだ」
案の定というべきか、あっさり食い付いてきたアスターに、『うまくいった』とザクセンとシプリが目で会話をする。
建築関係の仕事を持ち出せばアスターは食い付いてくる。
アスターを王都から連れ出せば、後日、カークから呼び出しがあったとしても『仕事のために不在』という言い訳ができる。
アスターはノース麾下ではないし、地位的にはカークと同等だ。仕事を名目に多少素っ気なくしたところで大きな問題にはならない。
「さっそく明日から行きたいんだけど」
「明日?急ぎってことか。ちょっと待ってろ、スケジュールを確認するから」
何日も王都を不在とするとなると、他の仕事とのかねあいもあり、スケジュール的な余裕もなくなるはずだ。問題の『捕虜収容所』行きは食い止められるだろう。
「アスター、ちゃんとお断りの手紙を書いておいてね」
「あぁ、判った」
この親友は目を離すととんでもないことをしようとすることがあるので、驚かされる。
よくカークからこの手の誘いが来ているようだが、何故誘いが来るのか理由を考えてほしいものだとつくづく思う。
(もうちょっとモテる自覚と危機感を持ってほしいよ)
しみじみとそう思うシプリであった。
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