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◆緋〜死の熱を持つもの〜(10)


結局、仮眠を取る暇はなかった。
夕刻の会議にはアスターの部下の他、生き残った他の部隊の赤将軍たちも集まっていた。
会議とはいっても、たき火を囲んで、食事を取りながらの話し合いだ。

「丸一日以上経ったわね」

カーラの言葉に皆は頷いた。
皆、疲れが隠せていない。どの将もほとんど休めていないのだ。

「生き残りは今いる数ぐらいだろう。これ以上はあまり望めん」
「哀れだけどもう助けに戻る余裕もないしね…。全く酷い有様だよ」

それぞれ左翼と右翼の最後尾を指揮していたマドックとシプリの台詞だ。
アスターは最後まで戦場に残ってくれた二人にあらためて礼を告げた。

「生存者からの証言などにより、状況も大体判りました。どうやら紅竜の放熱波は最前列に広がるものだったようです。そのため、各部隊の最前列が壊滅しております」

各伝令からの報告をまとめていたユーリが早急に作ったメモ書きのような書類を手に説明する。

「敵国が全く前に出てこない為、深入りしていた部隊もあったようです。その部隊は死亡率8割。紅竜の攻撃は恐ろしいほどの破壊力があります。遺体も消し炭で身元の判明すら不可能だったとか」
「全体の死亡率は?」
「現時点ではぎりぎり3割というところですね。重傷者が多いため、増える可能性があります。あと最前列がやられておりますから、指揮系統が壊滅に近い状態です。特に将軍職の死亡率が高く、半数以上に及びます」
「イードとバーカスは見つかったか?」
「まだです。しかし、生存者の証言からすると死亡されたか捕虜にされたかのどちらかかと…」

アスターはため息を吐いた。
最悪の状況だと思う。
しかし、今は自分しか青将軍がいない。ザクセンは実質的に赤と同等だ。アスターが全体をまとめないわけにはいかないのだ。少なくともこの敗戦を受け、部隊編成がされるまでアスターがこの全軍の総責任者なのだ。
集まっている赤将軍の中には己の部下じゃない赤もいる。彼らは他の青将軍の麾下にいて生き残った赤将軍たちだ。上官がいなくなったため、今はアスター麾下に臨時で入っている。

「部隊編成を行うぞ。赤将軍がいない部隊は他の部隊に臨時で振り分ける。明日から王都に撤退する。最後尾はシプリ、カーラ、マドック、お前らに任せたぞ。追撃はないと思うが油断はするな。最前列をロー、お前に任せる。他の編成は明日朝に発表する。出立は明日午後の予定だ。それまでに準備をすませろ」

御意という返答を受け、アスターは赤将軍がいない部隊を他の部隊に振り分けていった。
無傷の部隊がアスター麾下しかいないため、どうしても彼等の荷が重くなりがちであったが、文句はいえないだろう。
敗戦のため、王都に戻ったら処罰が待っている。

(死んだ部下のことを思えば文句は言えないが…気が重いな)

紅竜の存在を聞き、青竜の使い手レンディはどう出てくるだろうか。そう思った。