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◆緋〜死の熱を持つもの〜(9)


二人の将軍は別々の救護テントに収容されていた。
ホセはちょうど手術中とのことで会うことはできなかった。
イーガムはちょうど治療中だった。医師も人手不足なのだろう。青将軍の治療だというのに、一人しかついていなかった。しかも若い。二十歳前後だろう。
イーガムを見てギョッとした。酷い火傷だった。

「…おい…」
「あ、将軍!も、申し訳ありませんが、そこの水を取ってくださいっ」
「判った」

顔の半分から肩にかけて、ひどく焼けただれている。これは痕が残ってしまうだろう。
イーガムは意識がない。薬で深く眠っているとのことだった。

「癒せるのか?」
「当たり前ですっ!!!」

何気ない問いは怒鳴り声で返された。アスターは驚いた。

「す、すまん」
「い、いえ、俺こそすみませんっ。ですがお助けしてみせますっ。それが俺たちの役目なんですから!!」
「…頼む。俺に何か出来ることがあったら言ってくれ」

アスターがそう告げると若い医師はぎこちなく笑った。

「ありがとうございます。ですが大丈夫です。必ずお助けしますから、将軍は俺たちを守ってください。お願いします。この方は必ずお助けしますから」
「ああ」

アスターはイーガムの傷ついていない方の頬に触れた。意識はない。しかし確かに暖かい。
醜く焼けただれた顔が痛々しい。眠っていた方が楽だろう。

「イーガム、頑張れよ」

そういえば彼の部隊はどうなったのだろう。報告はまだ聞いていないが、一人でも多く生存者がいるといい。そう思った。


++++++++++


一時間後、アスターは思わぬ事で呼び出された。

「うわあああああ!!」
「お止め、くださいっ、落ち着いてくださいっ!!」

暴れていたのはイーガムだった。気が狂ったかのように騒いでいて、先ほどの若い医者と兵士二人が必死になって止めようとしている。しかし相手は青将軍だ。複数人でも止めきれないでいるらしい。
アスターはザクセンと共にその騒ぎへ割り込み、隙を見て羽交い締めにした。慌てて医師が緑の印を動かして眠らせる。

「何なんだ一体」
「すみません、油断いたしました。……ご自分の顔を見てしまわれたようなのです」
「…ああ……そうか」

青将軍を止めるのは容易ではない。誰か気の利く者を、それも腕の立つ者をつけておかねばならないだろう。

「ともかく眠らせておいてくれ。早めに人選を行う」
「判りました」
「あと、イーガムに言っておけ。顔なんざ気にするな。命が助かって、顔も半分は無事なんだから儲けたじゃねえかってな。最悪の場合、俺が嫁に貰ってやるよ」
「は、はあ…」
「もっと酷い火傷の連中がうじゃうじゃいるんだ。そんなことで嘆かれていても困る」

大半は火傷で死んだ。最前線にいた者達は骨すら残さずに焼き尽くされたのだ。それに比べたらイーガムは軽傷の方なのだ。

「アスターしょーぐーん。報告があるわよーーっ」

遠くから己を呼ぶ声がする。声からしてカーラだろう。少しも休む暇はない。

「判った、今行く!!」

アスターは叫び返し、歩き出した。