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◆月〜造られし感情の行方〜(4)


タパール国を堕とし、見事初陣を飾ったノースは国王に報酬として箱を選ぶように言われた。
大、中、小の箱を選べと言われたノースは何の謎かけだろうと疑問に思いながら、一番小さな箱を選んだ。持ち帰るのに楽だと思ったためである。
そうして小さな箱を貰ったノースは官舎に戻ってからその箱を空けた。
居合わせたカークは『陛下からの報酬ですか?』と問うた。

「あぁ」
「そうですか。一番小さな箱をお選びになるとはノース様も隅に置けませんね」
「どういう意味だい?」
「おや、ご存じないので?」
「あぁ」
「陛下はときどきこういったお遊びをなさるのです。お気に召された相手にお遊びをなさるので、箱の中身はどれを選んでも良き品であると評判です。傾向として、もっとも大きな箱には質の良い布や装飾品、中くらいの箱には宝石や金が入っていることが多いとレンディに聞いています」
「……それで、小さな箱には?」
「ごらんになられたのでしょう?」
「あぁ……鍵だった」
「その鍵は屋敷か奴隷を選べるという証です」
「………奴隷?」

問い返しながら、ノースはガルバドス王家が虜囚という名の奴隷を保持している話があることを思い出した。カークがこう言うところをみるとそれは真実なのだろう。
ガルバドス王家は王族が多い。現国王も複数の妾を持っており、王子も複数いる。
奴隷はそんな彼等の慰み者となっているのだろう。

「まぁ私はあまり好きではありませんが」

ハーレム作りが夢だというカークの意外な反応にノースは少し驚いた。
理由を問うと、カークは王宮の奴隷が好きではないのだと答えた。

「私は貴族の生まれですので王宮の奴隷も存じております。王宮の奴隷は扱いが良いとは言えないのです。反抗しないよう爪を剥がされている者はまだマシな方で、手足を落とされている者、噛みつかぬように歯を全部抜かれた者など様々です。ハッキリ申し上げて私の好みでありません。自尊心を保たせながら反抗心を少しずつねじ伏せていく過程が私は好きなのです」
「……ふぅん」

何とも答えようがなく、ノースは適当に相づちを打った。

「ですがどんなときもチェックはぬかりなく行わなければなりません。一度ごらんになられてみてもいいかもしれませんよ?ノース様好みのよき男がいるかもしれませんから」
「いや、そんなのいらないから」

きっぱり反論しつつ、ノースは手元の鍵を見つめた。

「奴隷は要らない。だが屋敷もいらない。欲しいのは将だ」
「おや、私どもでは不安で?」
「いいや。単に足りないだけだ」

将を探しに行くと告げるノースにカークは同行を申し出た。王宮の奴隷を再度見てみたいのだろう。
こうしてノースとカークは王宮へ向かうことになった。