文字サイズ

◆碧〜枷と咎と〜(6)


一方、レンディは王宮にいた。
大広間には国王の他、王子たちと、重臣、そして黒将軍のうち、6名が集まっていた。

ガルバドス国王バロジスクには庶子も含めて10人以上の子供がいる。そのうち、5人が王女だ。
そのうち、末王子のクリストは青竜の使い手レンディと同世代である。つまり、レンディとノースは国王の子と同世代である。

「もう聞いている者もいるかと思うが、改めて伝えておく。バッカスが死んだ」

黒将軍のうちの一人が亡くなったことをデーウスは広間にいる全員へ伝えた。
黒将軍筆頭はレンディだが、レンディはこういった場ではあまり口を開かない。黙していることが多い。その為、会議は他の黒将軍によって進められることが多い。
この会議もデーウスにより、戦いの状況が説明された。
このたび行われたバルスコフ国戦では、バッカスとブートの二人の将軍が出撃していた。この二人は前回の戦いに出撃せず、国内守護を命じられていた将だった。そのため、今回は優先的に出撃の機会が与えられたのだ。
幸い、バルスコフ戦は、勝利することができたものの、必死の抵抗に遭い、戦いは難航したという。バッカスの死因も捨て身の攻撃による相打ちによるものだったという。

「血の気の多いおっさんだったからね、自ら城へ乗り込んでいったんだろうけどね…」

黒将軍の一人リーチが嘲笑雑じりに呟く。リーチは小柄な二十代の男でナイフと印を得意とする将だ。
その台詞に血を上らせたのは、報告のために上がっていた赤将軍の男だ。
バッカスの側近であった男は剣を抜いた。

「国のため、必死に戦われた我が将軍を馬鹿にされますか!!」
「事実じゃん」

呑気で傍若無人な口調はリーチの特徴だ。
彼は飛びかかってきた男の懐に飛び込み、腹部を切り裂いて、蹴り飛ばした。
ノースは顔をしかめた。

「リーチ、国王の御前だ。血を流すな」

リーチは片膝をつき、頭を下げて、国王へ謝罪の言葉を口にした。
血気盛んな王は血に慣れている。特に叱責することなく済ませた。

「すぐに連れていけ」

硬直している臣下らにノースが指示を出す。その指示を受けて、慌ただしく人が動き、倒れた男を運んでいく。腹部を切り裂かれているが、ここは王宮だ。腕の良い医師の適切な治療を受ければ、助かる見込みもあるだろう。

「レンディ」

国王に意味ありげな視線を向けられた黒将軍筆頭は、小さく笑みを浮かべた。

「口は悪いけれど、リーチに同感だよ。敵の懐に飛び込んで死んでいるんじゃ、愚かとしか言い様がない。飛び込むのであれば、相応の力がなければならない。彼は、生き延びるだけの力がなかった。読み違えたそのつけを我が身で払ったんだ」
「自業自得であると?」
「大軍を率いる身でありながら軽率な行動を取った彼が悪い。青将軍には死者はでていないというからね、一体どんな策を取ったのか詳しく知りたいと思っているよ」

冷ややかに切り捨てたレンディの返答に対し、完全実力主義を貫く国王は満足げに笑んだ。
彼はレンディをとても気に入っている。現実主義で実力があり、頭も回る少年を子供の頃から我が子より可愛がっているのだ。

国力を急速に上げ、大国にまでのし上げた国王である彼は、我が子にも実力主義を貫いている。
今までのところ、その期待に応えているのは、第一王子と第二王子だ。
血筋的にも問題はないため、次代の国王はその二人のうちのどちらかになるだろうと言われている。

「ノース」

王に名を呼ばれ、思案顔をしていた小柄な智将は顔を上げた。

「はい」
「次のダリューズ国戦はそなたに総指揮を任せる」
「御意」

場に緊張が走る。次の戦いが決定したのだ。

「全て任せるがゆえ、早急に終わらせよ」
「御意」

全て任せるということは戦力をつぎ込んでよいという許可だ。
王の意図を正確に読み取ったノースは少し天井を見上げた。考え事をする時、上を向くのは彼の癖だ。

「では、私以外に三名、連れていきます」
「よかろう。人選は任せる」
「御意」

最大、四万の大軍になる。しかし許可は降りた。
早く終わらせるには遠慮無く戦力を注ぎ込み、完勝するのが一番だ。

「次の黒将軍は誰にする?」
「ノース、君のところの二人は?」
「うちは戦いを控えている。将を渡す余裕はないよ。そもそも、バッカスにはいい側近がいただろう?ゼスタといったかな」
「あぁ、彼ならいいかもね。上司と違って血の気も多くないし」
「うむ、功績も問題なかったはずだ」

他軍から将を上げるよりも、亡くなった将の部下から昇進させた方が周囲の反感を買わずに済み、引き継ぎもスムーズに進む。
国王の承認を得られたことにより、次の黒将軍はあっさりと決定した。