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◆闇〜掟の鎖〜(3)


部族の仲間と再会した約一年後、レナルドは徴兵に応じて軍に入った。
どこの村や町にも属していないレナルドは徴兵を逃れようと思ったら逃れられたが、噂話でレンディの名を聞いたことが決め手となった。
軍に入ったレナルドはすぐに探していた子供が噂の『青竜の使い手』と同一人物であることを知った。年齢、外見的特徴、更に名が決め手となった。

「レンディ様?レンディ・キアというらしいぜ。幼い頃、死にかけていたところを青竜に拾われて育てられたらしい」
「…キア……」

更に死霊にも確認してもらい、レンディが同族の子である確信を得た。
レンディはキア族を襲った将を殺し、揺るぎない地位を得ていた。

闇の印を持つレナルドは戦場で死を確認することができる。
多くの死霊が生まれては天へ還っていく姿を見つつ、レナルドは複雑だった。
仲間としてはこの上なく心強い相手。今となっては雲の上の立場となった幼子は、自分の足で生きて歩いている。しかしその地位は大量の死の上に生み出されたものだ。
レンディの立場は今、確かなものだ。青竜がいる限り、揺るぎないものとなっている。
そして彼はキア族が住まう地域一帯を己の自治領にしている。彼の領になっている限り、キア族が手出しされることはないだろう。彼は己の出身部族を守ってくれているのだ。
しかし、大量の死の上に生み出された結果と思うとレナルドは複雑になる。
これがレンディにとって幸せなことなのかどうか、レナルドには判断がつかなかった。


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キア族の暮らす洞窟の入り口は切り立った崖にある。
元同族の死霊に頼んで洞窟内の仲間に連絡してもらい、縄をおろしてもらって、崖を登っていく。
一度でたどり着ける高さではないため、三度ほど登る縄を変えてよじ登っていく。二度目以降の縄はところどころに首尾良く用意されている。
そうして狭い入り口の穴から入り込み、横穴を奥まで這っていくと、ひんやりした広い内部に出る。
少し先には明かり取りの穴が見え、内部はかろうじて見える程度の明るさがある。
レナルドが戻ってきたことを知って、仲間が殆ど集まっていた。
レナルドは代表としてサビーネに話す形で説明をした。

レンディを見つけたこと。
青竜に救われ、育てられていたこと。
ガルバドスを代表する軍人の一人となっていたことなどを今のレンディの立場の説明も交えて話をした。

大人達は皆、沈鬱な表情で一言もなかった。
サビーネはしばらく無言でレナルドを見つめた。

『恨みは恨みを生み出す』

ぽつりとサビーネは呟いた。

『恨みを恨みで晴らしてはならない。さらなる恨みを生み出し、悲しみを増やしてしまう』

恨みを恨みで晴らしてはならない。
それは死人使いの絶対なる掟だとサビーネは告げた。
キア族は全員が闇の印を持つ死人使いだ。つまり、その掟はキア族の掟でもあるのだ。
レナルドは己を助けてくれたヨハネスのおかげで掟を破らずに済んだ。彼の教えとキア族の掟が偶然にも同じだったからだ。
しかし、レンディは七竜に救われた。そして幼すぎたが故に掟を知らなかったのだろう。

『掟を破り、復讐に走った者をキア族に迎え入れるわけにはいかない』
『でもレンディは小さかった。掟を知っていたはずがない』

レンディより大きかったレナルドでさえ覚えていなかったのだから。
そう反論したが、大人達は黙り込んだままだった。
それから仲間と三日ほどを過ごし、レナルドは軍に戻った。
その間、レンディの話題は一度も出ることはなかった。