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◆みどりの分かれ道(6)


後日、サフィールは帰省した兄にフィールードの話をした。
兄には『ノロケかよ』と突っ込まれたが、サフィールは気にしなかった。
しかし、さすがは兄だ。彼は鋭い点を突いてきた。

「お前、フィーに嫉妬されたりしなかった?」

何でわかったのかと問えば兄は苦笑した。

「お前のことだから判るんだよ」

そんな理由では判らない。自分は兄のことがそういう意味で判ったことなどないのに。
そう言うと近くで薬草の仕分けをしていた母が静かに口を開いた。

「サフィ。お前はスティの弟で、スティはちゃんとお兄ちゃんだということだよ」

訳が分からない。双子に順番など関係がないではないか。
そう珍しくも愚痴る弟にスティと母は笑った。


*************


「器の違いだ」

その夜、妻から話を聞いたスティールの父はそう呟いた。
スティールは鷹揚で良くも悪くもすべてを受け止める器の広さがある。来るもの拒まず、去るもの追わず。良くも悪くも人間関係はさっぱりしていて、しかしその分、周囲の人間を第三者の目でよく見ている一面がある。
サフィールはやや神経質だ。当人に自覚はないようだが、少し排他的な一面があり、スティール以外に関心がない。運命の相手ということでフィールードには多少関心を見せているようだが、元々人間関係が希薄ということもあり、スキンシップ過多なフィールードとは少々バランスをとるのに苦労しているようだ。
しかし、仕事は非常に出来る。記憶力もよく、治癒の腕も若くしてずいぶんと上げた。おそらくサフィールは地元の人間のほとんどの治療歴を覚えているだろう。

「サフィは貴方に似ているわ」
「スティはお前に似たな」

物静かな夫婦はそう言って笑った。

夫婦の隣の部屋では双子が眠っている。その枕元には一匹の小竜。
彼は今日、初対面の父に『ロスの色違いか』と言われて少々気を悪くしていた。
さすがの小竜も以前この家で暮らしていた同種と色違いで済まされるのは気分が悪かったらしい。

翌日、スティールたちはフィールードに会った。フィールードがいつものように遊びにやってきたのだ。

「土の相手がラーディンって言うんだけど、フィーにちょっと似ているよ」
「彼とは会ってみたいな」

珍しく他人に興味を示したサフィールにフィールードが軽く眉を寄せる。
そんな恋人に気づいていないサフィールを見て、スティールは内心肩をすくめた。
自分が兄だから判るのではない。単に彼らがわかりやすいのだ。
生まれたときから一緒の弟は表情の変化が判りづらいが、さすがにスティールが見間違えることはない。
そしてフィールードはすぐ表情に出る性格だ。少なくともサフィール相手にはすぐ顔色や表情が変化する。非常にわかりやすい。

「カイザードには会ってみたくないの?」
「今のところ興味はないな」

美人だと教えてある人物には会いたくないという弟にスティールは笑った。

「フィー、良かったね。フィーに似た方にだけ会ってみたいんだってさ、サフィは」
「!!!」
「…スティ」

意味に気づいてパッと顔を輝かせるフィールードと、顔を赤らめ、珍しくも苦虫を潰したような表情になった弟に、スティールは声を上げて笑った。

<END>
ロスというのは緑竜の名です(初登場かな?)
ひいじいさんが使い手。
緑竜の名は、たまにチラッとでる程度であり、大きな意味はありません。
(ブログからサイトへの再掲載にあたり、加筆修正しました)