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◆霧に霞みし夢を見る(1)


ステファンはシードの部下である。
彼はシードの隊の中隊長であった。
さほど勤勉と言えぬ性格の彼は、出世欲が薄く、そこそこの地位でいたいと思っていた。
出世したら責任も重くなり、なすべきことも増える。それよりはそこそこの地位でのんびりと仕事を続けていきたいと思っていた。幸い、騎士はエリート職だ。高位に出世しなくても十分食べていける。
そんなステファンは仕事面ではうまく手を抜いていた。
目立ちすぎると出世してしまい、転属なども考えられる。そんなことはごめんだ。ステファンの希望は良き上官であるシードの部下として働き続けることであり、そのためには今の地位でいることが重要なのである。
そして今のところ、ステファンの希望は叶っていた。
しかしそんなステファンの生活も、ある日突然崩れ去った。

「おい、ステファン。俺の後任はテメエだ」

彼の上官シードは副将軍就任にあたり、己の後任にステファンを指名したのである。

「!!!」

シードが大切に育て続けたシードの隊。
その後任にステファンを指名するという。
シードの信頼の厚さが判る人事にステファンは驚愕した。

「何故俺ですか?もっと優秀な方がいらっしゃるではありませんか」

ステファンの当然の疑問に対し、シードはしかめ面になった。

「あぁ?テメエ、俺が手抜き人事をしていると思ってるのか?
俺はテメエが一番優秀だと思ったから指名した。俺だって人の子だ。少しは楽をしてえし、優秀なヤツを全員出世させて手放したわけじゃねえんだよ。隊がなりたたなくなるからな。
隊の運営にあたり、最低限必要な優秀な部下は手元に残しておいた」

その中の一人がテメエだ、とシードは告げた。
口は悪いが、内容は最上級の褒め言葉だ。ステファンは胸が熱くなり、上手に手を抜いていた過去の己を恥じた。シードはすべて見抜いていたのだろう。それでいて、見逃していてくれたのだ。

「お前になら俺の隊を安心して譲れる。だが今後も後方支援ばかりだと思うな。ちゃんと最前線でも戦えるように鍛えておけよ」

そこまで言われては否とは言えない。

「御意。精一杯勤めさせていただきます」

こうしてステファンはシードの後任として大隊長に就任したのである。