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◆古木石の音色(3)


隣で眠るウィダーの髪を片手で優しくなでながら、スティールは小さな鈴を見つめた。
鍛冶が得意なドゥルーガだが、あまり武具を作ろうとはしない。ドゥルーガなりのプライドがあるのだとスティールは知っている。
スティールが知る限り、ドゥルーガが作った武具は片手の数ほどしかない。

『作ってもいいと思えるのはフェルナンぐらいだな』

以前、ドゥルーガはそう言ったことがある。

『お前は駄目だ』

そうカイザードに直に告げてしまい、もめたこともある。

当時、カイザードは成長過程だった。
ドゥルーガは完成された武術の型を持つ人物にしか武具を作らないのだ。だから当時のカイザードでは駄目だった。『成長過程のカイザード』のための武具しか作れないからだ。
仮の武具なら幾らでも作れる。だがその人物にとっての最高の武具は作れない。そうドゥルーガは言う。
ならばウィダーの鈴はどんな意味を持つのだろうか。

「そいつは武具というより祭具だ。お前も知る通り、死者を導くための品だ。武具と比べることの方が間違っている」

ドゥルーガはそうあっさりと告げた。

「死人使いは死の安寧を守るべきもの。本来、死者を作るべき側に立つものじゃない。出来るだけそいつが死を生み出さずに済むように導いてやるんだな」
「うん………そうだね」

ウィダーを軍へ入れてしまうのはスティールの勝手な意思だ。側に置いておきたいからだ。
軍に入ってしまえば必然的に死と隣り合わせだ。そんな道に引き込むスティールにはウィダーを守らねばならない責任がある。
戦場で生き抜くためには、実力以外の何かに左右される場合もある。
どれほど磨き上げられた武術を持っていようと、大きな印を使えようと、敗北することがある。
そしてそれを成し遂げてしまう『何か』は、人の持つ意思の強さにあるのだとスティールは経験から知っている。


以前、レンディを敗北寸前まで追い詰めたとき、立ち塞がってきた将がいた。
相手は黒将軍だった。しかし、不思議なほど彼は何も持っていなかった。強大な竜も印もすぐれた武具もなかった。
一方のスティールは上級印を持ち、ドゥルーガまでいた。負ける要素は何一つとしてなかった。
それでもそのとき、スティールとドゥルーガは彼に勝てなかったのだ。
身一つでレンディを守ろうとする相手に何一つできなかった。
大切なものを守ろうとする思いは、何よりも強い何かを生み出すのだとスティールは知っている。


優しくなでるスティールの手にすり寄るような動きを見せたウィダーに、スティールの顔が綻ぶ。
出会ったときは警戒心だらけで全く心を開こうとしなかった相手の無意識の行動が愛しくて仕方がない。
ずっと世界を斜めに見つめてきた彼が少しずつ心を開いて、自ら幸運をつかんでくれるといい。
そう願いつつ、スティールは眠る相手の頬に優しく口づけた。

<END>