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◆死人の子(4)

※軽めですが性描写があるので、苦手な方はお気をつけ下さい。

「こら、おい……」

出ろとラジクは促したが、ルムゥにその気はないようだ。ライルードはいつも動きやすい軽装であることも今回は悪い方へ動いた。白いシャツに茶色の革製のベストを羽織り、下は厚手のポケットの多いゆったりしたズボン姿だ。逆を言えばすぐに脱いでしまえる。
ルムゥはベルトを外すと下着まで一気に下げて下腹部を露わにした。明るい性格のライルードが見せることのない妖艶な笑みを浮かべた彼は露わになった性器を根元から手で擦り始めた。いつも牧場で馬に乗っているライルードの体はよく引き締まっていて無駄が無く、日に焼けている。しかしさすがに下腹部はいつも服に隠れているので白い。その対照的な色の白さもまたラジクの目を引きつけた。
ルムゥはラジクの視線をはっきり意識した様子で手淫を深めていく。元より若くて元気な体だ。すぐに元気よくそそり立った性器は密を零し始める。その密を指に取ると、ルムゥは後孔へ入れ込んだ。それもまた体への刺激になったのか、溢れる蜜の量がハッキリと多くなる。

「こら…出ろって…」

ラジクはライルードの肩を掴んで軽く揺さぶった。元よりライルードの体だ。無茶はしたくない。
技を使えば強引に追い出せないこともないが、協力者であるルムゥにそんな強引なことはしたくない。少なからずダメージを与えることになるからだ。それにちゃんと効くかどうかも謎だ。彼は肉体こそ持たないが、ラジクと同じ死人使いなのだ。

「こら……」

いいかげん、実力行為にでようかとラジクが思案し始めた頃、ルムゥはそれを察したかのように肉体を出た。

「………ラ、ジクッ……」

泣き出しそうに顔を歪めたライルードが逃げだそうと後ずさる。しかしルムゥは計算したかのようにズボンを膝丈までしか下げていなかった。中途半端に脱いでいることがかえって体の動きを遮っているのだ。そのため、殆ど動くことができなかった。

「……おれ……俺の、体…が……」
「……判っている……ヤツが悪戯した。……すまなかった」

お前のせいじゃないと告げるとライルードは少し安堵したように体の力を抜いた。

「四つんばいになって後ろを向いていろ」

煽られた体を満足させてやるという意味が伝わったのだろう。ライルードは素直に頷き、動いた。


++++++


照れくさいのだろう。
体を重ねた後、ライルードは何度も収まりの悪い茶色の髪を掻き上げた。
いつも笑顔で見つめてくる視線は逸らされたままだ。バツが悪そうに顔を歪めてはいるが、そう不機嫌ではないことは何となく判る。ただ、思わぬ事態に戸惑っているのだろう。

「俺、さぁ……いろいろ考えてたのになぁ」
「………?」
「お前とするときは俺から告白して、俺がリードして、戸惑うお前を安心させて…って思ってたんだよ」

ライルードなりの計画があったらしい。
大柄な体と明るく行動的な性格をしているライルードだ。受け身になるのは予想外だったのだろう。

「全く正反対になっちまってるし」

フィーのことを笑えねえなぁとライルード。フィールードは彼の弟だ。
しかし、何でここでフィールードの話がでてくるんだとラジクは少し怪訝に思った。

「まぁいいか」

お前のこと好きだからいい、とライルードは照れたように告げ、また来る、と言って去っていった。

いい相手を見つけたねえ、だの、また手伝ってやろうか?という野次馬にさすがにラジクも辟易しつつライルードを見送り、万年樹を登るとシイがいた。シイだけはちゃんと席を外してくれていたらしい。

籠の中身を確認し、最後に金を取り出す。生活に必要な品は大抵貰えるのであまり使用することがない金だ。しかしさすがのラジクもその金額には驚いた。

「金貨……?」

平民の場合、毎月の給金も銀貨以下であることが珍しくない。そんな世界だ。
故に金貨は普通見ることがない。完全に貴族社会限定と言える、そんな額なのだ。
さすがに見間違いかと思う。しかし金貨の色、そして刻まれた知恵と商業のペネラウ神が、嘘ではないことを示していた。

「高額すぎる……」

さすがに返そうかとも思う。しかし死人使いの習わしが頭に過ぎった。
死人使いは神との仲介者。死人使いに支払われる礼金は神々への感謝の表れなのだ。故にどんな少額だろうと高額だろうと文句を言わずに貰いうける、そんな習わしになっている。
ラジク自身ではなく、神々への感謝の気持ちなのだ。
金貨という高額の礼金はスティールの感謝の気持ちなのだろう。

ラジクは古ぼけたツボにその金貨を入れた。
代々受け継がれてきたそのツボはラジクが金を入れるのに使用しているツボだ。
何かあったらそこから金を出しているが、その何かが起こらないので、金を入れる以外に使用されることが滅多にない。
のんびりした質のラジクはいつも他の者がラジクの状態に気付いて、ラジクが欲する前に与えてくれる。それは食べ物であったり、服であったり、様々だが、希に弓矢がダメになることがある。使用されることがあるとすればそのときだろう。しかしそれもまた鍛冶屋が無料でくれることが多いため、持っていった金はツボに逆戻りしている。

『先代、あのツボ、幾らぐらい入っているんだ?』

まだ幼かった頃、ラジクは祖父にそう問うたことがある。

『さぁのぉ……今のツボはよぉわからん』

今のということは前のツボがあるらしい。

『じゃあ前のツボは』
『さぁのぉ……万年樹の根元に埋めたっきりだから、よぉわからん』

結局、判らないらしい。

「このツボ、何代目のツボだ?」

ぽつりとラジクが呟くと、シイが軽く手を広げた。

「5?」

俺が知る限りはそうだ、とシイ。
しかし、シイが生まれる前のツボがあるかもしれないという。
結局ツボの数さえ判らないようだ。

『人々の感謝の気持ちがこもった金だ。よき護りになる』

そう言って祖父はツボがいっぱいになったら地中へ埋めるように言っていた。
まだツボは半分ぐらいだからいっぱいになるには時間がかかるだろう。もしかしたらラジクの代ではなく、次の代に持ち越すかもしれない。しかしそれでいいと思う。問題は金ではなく気持ちなのだ。

さて一休みしようかと思っていると、覚えのある音が響いた。
死人使いにしか聞こえないであろうその音は魂が肉体から切れた独特の音だ。

「…魂が飛んだ」

少なくとも万年樹にいるときにこの音が聞こえた場合、ラジクの仕事になる。音が聞こえる範囲はラジクの担当範囲なのだ。
最近は隣村など近郊の町や村も担当しているが、今回は地元の町で死者が出たようだ。
そういえば以前サフィールが容態の悪い老人がいると話をしていなかったか。

「さて……仕事だ」

もしライルードが戻ってこようとしているのなら気の毒だ。ならば自分が行ってやろう。そう思いつつ、ラジクは支度を始めた。

<END>

死人使いのお仕事話。
スティールの田舎の話は妙に書きやすいため、それだけでシリーズが作れそうな勢いです。