(前話からしばらく経ってからの話)
みんなでワインを持ち寄って、簡単な飲み会を行った。
最初は先輩とラーディンだけだったんだけど、いつの間にかフェルナンも加わっていた。フェルナンが入ることは滅多にないから、ちょっと珍しい。
俺とラーディンは結構強い。俺は度を超えると寝てしまうタイプで、ラーディンは陽気になって笑い上戸になる酔い方だから、悪癖と言えるようなものじゃない。
問題は脱ぎ癖がある先輩だけど、フェルナンがいるせいか、それとも自主的にか、セーブして飲んでるみたいで、問題はなかった。
穏やかな会話を交わしつつ、気分良く時間が進み、それぞれ楽しく飲んでいた。
そうして夜も更けていき、そろそろお開きにしようかという頃だった。
「なぁ…スティール……」
フェルナンに話しかけられる。
「はい?」
何気なく返事した俺だったが、フェルナンは俺の座っているソファーにのし掛かるようにやってきた。内心、フェルナンの行動に驚いていると、抱きしめられるように口づけられた。さすがに驚く。
絡められる舌が熱く柔らかい。お酒のせいかな、相手の体温が常より上がっているのが感じられる。俺が元々体温が低いせいもあるかもしれないけれど、よけいに熱く感じられる。
「ス、スティール…」
目の前で口付けを見せられたせいか、少し焦りの混じったラーディンの声に我に返る。いけない、口付けに酔ってる場合じゃなかった。
けれど、離そうとしたフェルナンの体は離れなかった。それどころか、服に手をかけられる。襟元のボタンが外されて、手を胸元に差し入れられて驚く。ええ、脱がされる!?
「あのフェルナン様…」
「フェルナン様っ!」
さすがに目の前でヤるところを見せられるのは嫌だったのだろう。慌てた様子でラーディンとカイザードが割り入ってくれた。助かった。
けれど、途中で動きを止められたフェルナンは不満げに俺を睨んでくる。何で俺ですか!?
「生ぬるい」
「は?」
「こんな半端なものは好きじゃないな。もっと酔わせてくれないと中途半端すぎて物足りない。どうせなら意識が吹き飛ぶような強さの方がいい。爽快な気分になれる」
その言葉の意味はアルコールですか、アッチの方ですか?
ニッと笑んでくるフェルナンの笑みの強さと綺麗さに目を奪われる。
ぺろりと口元を舐める仕草が壮絶に色っぽい。アルコールのせいで上気した肌や色気たっぷりに見つめてくる視線の誘いにこちらまで酔いそうだ。
「スティール〜……」
俺がフェルナンに魅入っていることに気づいたのだろう。唸るようなラーディンの声に我に返る。ヤバイ!
慌てて手を伸ばしてフェルナンの首元に触れる。そのまま緑の印を発動させてフェルナンを眠らせた。
ああ、危なかった。
「ええと、部屋に連れて行かないと…」
「俺が行く」
思いきりカイザードに睨まれ、フェルナンを奪われた。
反論を許されぬまま、そのまま部屋を出て行くのを見送っていると、再びラーディンに恨めしげに名を呼ばれた。
「せめて俺たちのいないところでしてくれよな、スティール。ルール違反だろ」
うん、ごめん。俺も別に露出狂があるわけじゃないし、見られながらしたいわけじゃないんだけど。
「それは知ってるけどよ。気をつけろよ」
「うん、ごめん。知らなかったんだ」
あんな酒癖だと知っていたら気をつけていたんだけどな。
あれってどういう酒癖なんだろう。キス魔?…ヤリ魔じゃないよな。そう思いたい。
うう、確認すべきかどうか、迷うなぁ。ヤリ魔ですか?なんて聞いたら、確実に激怒されそうだし。
「しかし困った酒癖だな、フェルナン様。やべえだろ、あれは」
うん、そうだね。
けどあの人、酒は強いね。結構空けてたよ。
「自覚させた方がいいと思うぞ」
うん、それとなく話をしておくよ。ああいうことを俺以外にされたら困るしね。
++++++
フェルナン、昨日俺は貴方に襲われたんですが。
ええ、カイザードたちの前で。
いえ、本当ですよ。二人が止めてくれたおかげで未遂でしたが。
いえ、本当ですってば。
信じてくださいよ、フェルナン。
え?俺が悪い?何でですか?
(赤い顔のフェルナンに無言でカレンダーを突きつけられる)
……。
…………。
………………………。
あー……けど……はい、確かに俺も悪かったかもしれませんね、すみません。
<END>
前回から随分、間が開いていて、フェルナンなりに欲求不満だったというわけです。