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◆サフィールの港町日記(6)

一ヶ月以上を経過して故郷に戻ったサフィールは変わりのない家族と大喜びのフィールードに迎えられた。

「港町はどうだった?」
「広かった」
「海はどうだった?」
「でかかった」

喜々として問うてくるフィールードに淡々と答えていたサフィールは、どんな感じだったのかさっぱり情景が浮かばないじゃないかと愚痴られながら、薬の材料を仕分けしていった。
愚痴りながらもフィールードの機嫌はとても良い。泊まっていくつもりなのか、夜も遅いのに帰る気配は全くない。
なんだかんだと結構長居した港町ギランガだったが、独特の潮の匂いに慣れてしまえば特に住みにくい町ではなかった。
ただ、港町に慣れるより多忙だった方が印象深い。
毎日訪れる患者により、毎日治療をしていた。それも難易度の高い治療ばかりだった。おかげで腕が上がる一方で何のために港町に来たのか判らないと思ったほどだ。港町に対する印象があまり鮮明でないのは患者達の印象が強いせいだろう。薬師であるサフィールには、港町よりそれぞれの怪我や病の方が印象深く残っているのだ。

「一言で言えば患者だらけだった」
「なんだそりゃ?」

そんな返事をして恋人に呆れられたサフィールは、この後、彼を訪ねてやってくるようになる患者がいることを知るよしもなかった。


<END>

実は凄腕だったというお話。(かかった旅費以上に儲けて帰ってきていたり)
この後、サフィールは『凄腕の医者』として密かに噂になり、遠路はるばる患者がやってくるようになります。(耳ウサギ亭の店主に住んでいる町を答えたため)