文字サイズ

◆シードの見合い話 その1(シード視点)


アルディンの末弟で次期ミスティア公爵となる予定だというコウに会った。
金を紡いだような金髪に紫水晶のような瞳。それも常に潤んでいるかのようにキラキラしている。
何というか、呆然としちまうような美形ってのはいるもんだな。
アルディンも顔のいいヤツだから、弟もそれなりだろうとは思っていたが、それなりどころじゃなかった。

「コウの母君は白薔薇のココ姫と歌われた美姫だからな」

とアルディン。
白薔薇のココって姫君の名は俺も聞いたことがある。…なるほど、美姫の母親譲りってわけか。
感心して見ているとその弟君から声をかけられた。

「我がミスティア領で行われる予定だという第五軍の演習予定表を見せてもらった。なかなか効率よく出来ている。しかし海軍との演習予定が組まれていない理由を聞きたい。我がミスティア領は東の海に面しているが故、海からの侵略に備える必要があり、時と場合によっては海軍との協力体制が必要となってくるだろう。我が領へ来られるのであれば、これを機会に演習を行われてはいかがかと思うが」

こちらを試すように見据えてくる眼差しは鋭い。
人形みてえに儚げな容姿だから、気は弱いのかと思ったが全然違った。
さすがはアルディンの弟というか大公爵家の跡取りだけあるな。見た目と中身は大違いってやつか。

「そいつに関してはこちらも事情があってな。何しろ大所帯だから異動と食費だけでも相当な経費がかかる。当然ながら日数にも問題があって、海軍と演習を行うほどの予算が捻出できなかったってわけだ。元々新人演習が一番の目的だからそちらを優先し、海軍演習は避けさせてもらった」

説明すると思案するかのように揺れていた眼差しがスゥッと細くなり、ニコリと笑んだ。
そうすると整いすぎた容姿もあって、ゾッとするような綺麗な笑みになる。

「経費が問題であれば話は早い。演習地が我がミスティアだ。相談に応じよう。その分、少々こちらの都合に合わせて頂きたい部分があるがいかがだ?」

ミスティア領は次代の主であるコウに合わせ、軍も代替わりの準備を進めているのだという。そのため、近衛のような強力な軍と演習を行い、レベルアップを行いたいのだという。
その相手として第五軍が選ばれたのは当然だろう。将軍がコウの兄アルディンだからだ。
それならこっちもそれ相応に応じるまでだ。経費を負担してくれるってのなら悪い話じゃねえしな。

「じゃ、商談に入るか。あぁ、アルディン、てめえは先に執務室へ行ってろ」

っつーか、お前は来るな。身内が中に入ってるとやりづれえからな。

「酷いぞ、シード」

お前は金銭感覚が悪いんだよ。俺はコーヒー代を金貨で払おうとしたヤツを初めて見た。
金勘定は俺に任せておけ。
アルディンを追い払うとコウが苦笑顔だった。

「すまぬな。兄上は長兄で最初の子だったためか、父上が溺愛してお育てになられたらしく、少々世間知らずなところがあられるのだ。側用人も過保護な者が多かったらしく、どうも変化が見られぬ。そなたのようなしっかりした方が側にいてくださってありがたい」

アルディンの末弟とは思えねえしっかりした台詞だ。何というか兄弟順が逆みてえな話だな。
話し合いはミスティア家に用意された客室で行うことになった。
部下共が着いてこようとしたが、コウは不要の一言で追い出した。さすが大貴族、命じ慣れていて、迫力が違う。すがすがしいほどだ。
部下共は往生際悪く足掻いていたが、素直に出て行けっての。こっちが恥ずかしい。
幸い、商談はすんなりと上手くいった。
去り際、コウに妙なことを聞かれた。

「シード殿はおつきあいされておられる方はおられるか?」

いや、あいにく独り身なんだよな。

「そうか。では兄が世話になってることであるし、良き相手を紹介しよう。何、幾人も候補はいるゆえ、気に入らなかったら遠慮無く断ってくださって構わぬ」

何だか、喜んでいいのか、迷惑に思うべきか、迷うな。
ミスティア家からの紹介じゃ断りにくいが、大貴族と縁が出来るのはありがたく思うべきだろうしな。
っつーか、俺にはアルディンがいるから、繋がりはとっくにあるんだが。
ホントは兄に良き相手を見つけたいのだが、とぼやく末弟殿にニルオスの件を言うべきかどうか心底迷った。しかしさすがにアルディンに気の毒だしな…。
しかし見合いかよ。どんな相手なんだか…。


<END>

コウはアルディンより先に出来ていたキャラのため、しっかりした設定があります。
コウはシードへの親切心ではなく、手頃な相手を見つけたぞという気持ちで縁談を持ちかけています。ミスティア家は大貴族のため、親族も多く、自分の代の親族達にしっかり者の伴侶を宛がいたいという気持ちがあるのです。