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◆リオ・グラーナ(1)


サフィンは近衛騎士だ。五つに分かれた近衛軍の第二軍に所属している。
昔から、生真面目なばかりが取り柄と言われてきた。
とてもじゃないが、面白みある人間ではない。
騎士になったのは次男だったからだ。実家は王都でそこそこ大きな商売をしている店だが、跡継ぎには兄がいて、商売の才覚もある人なので問題もない。仲のいい兄と争うという気にもなれなかった。
これといった趣味もなく、淡々と仕事をこなして日々を過ごしている。
数少ない楽しみは月に一度の逢瀬だった。
王都の歓楽街にある店の男娼に馴染みがいた。
時々彼に会うのが楽しみの一つになっていた。

シンというのが彼の名だ。本名かどうかは判らない。花街では異名を使う者も多い。
彼とは士官学校時代に出逢った。友人たちに誘われて出向いた店が彼のいる店だった。
特別、シンを気に入ったわけではないように思う。しかし、不思議と足が出向いて、そのままいつしか常連になっていた。

花街は日が落ちてから賑やかになる。
今が一番賑やかな時間帯なのだろうか。通りは誘いの声、それに応じる客の声で大変賑やかだ。
サフィンは友人達に誘われて、彼等の後を追うように歩いていた。

「お前、今日もリオ・グラーナ?」
「馴染みがいるんだろう?たまには他の店で味見しようと思わないのか?」

共に歩く二人の友人たちにからかい混じりに問われ、サフィンは思案顔になった。惚れ込んでいるというわけではないので、他の店もいいかな、と思う。遊び慣れた友人達はいい店も知っているようだ。

「リアンダに可愛い新人ちゃんがいるんだぜー」
「ファルミュータもいいよ。可愛い子が揃ってる」
「へえ…」

少し興味をそそられた。誘いに乗ろうかと考えてみる。そのとき、最初に行く予定だった店リオ・グラーナが目に入った。店としては中堅どころ。花街ではごく一般的な規模の店だ。店を見た途端、誘いに乗る気が失せた。

「……あー…止めとくよ」

自分でも少し不思議に思いつつもそう断ると、友人二人にはやっぱりか、という顔をされた。毎回のように同じパターンなので友人達の反応も同じだった。

「お前、惚れてるのか、面倒くさがりなのか判らねえな」
「まぁいいが…。じゃあ、また明日な」
「あぁ、またな」

サフィンは友人二人と別れ、店の入り口を潜った。